臨床工学技士よりみなさまへ

臨床工学技士の業務の概要

臨床工学技士は、生命維持管理装置を用いて集中治療を行う専門家です。生命維持管理装置とは、人の重要臓器である心臓、肺、腎臓、肝臓などの機能を補助、代行する医療機器を言います。生命維持管理装置は人の身体と一体的に稼働し、患者さんの身体に様々な生理学的影響を与えます。そのため臨床工学技士は、集中治療専門医、各診療科医師、看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士等と連携しながら、患者さんの身体機能を厳密に把握し、治療効果の評価、副作用の早期発見、早期対処に努めています。

また、医療機器の専門家として使用する医療機器の工学的特徴を理解し、医療機器の機能が最大限発揮されるように操作および保守点検を行っています。臨床工学技士が集中治療室において、集中治療の必要な重症患者さんの治療に直接携わるほか、生命維持管理装置をはじめとした各種医療機器や集中治療室における電気設備、医療ガス設備の安全管理を行うことにより、高機能な医療機器を安全に使用することに尽力しています。

集中治療における臨床工学技士の役割

集中治療を必要とする疾患の代表例として、たとえば敗血症があります。敗血症になると全身の炎症反応が起こり、肺、心臓、肝臓、腎臓、脳などの複数の重要臓器が機能不全を起こします。
肺が障害を受けると酸素の血液への取込や二酸化炭素の排出が上手く行かなくなるため、人工呼吸器が必要になります。一方で、人工呼吸は、肺をさらに障害してしまう可能性もあります。そのため、人工呼吸器の設定を患者さんの状態に合わせてこまめに調整する必要があり、医師の指示の下で臨床工学技士がこれらを担当しています。さらには、人工呼吸器装着期間を可能な限り短くするために、人工呼吸の継続が必要なのか否かを毎日評価し、医師や看護師と連携しています。

人工呼吸器による呼吸補助が限界に近づくと、次は体外膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)を使用して呼吸機能の維持と肺の回復に役立てます。ECMO管理は、凝固抑制や回路トラブルなどに対応できるように、適正な管理と専門性が必要となります。

     
臓器の中で、腎臓も大切な臓器です。腎臓に障害がおよぶと尿が作られなくなり、体内に水分が貯留したり、血液中の電解質バランスが崩れてきます。このような患者さんには腎代替療法として、血液透析に代表される血液浄化療法が行われます。血液浄化療法を行うことにより体内の水分量や電解質などの物質の排泄や補充を行うことができ、体内の恒常性を維持することができます。その上で、血液浄化療法の実施により血中薬物濃度に影響が出るため、臨床工学技士は医師や薬剤師と血液浄化療法の内容について共有することが必要となります。

患者さんの状態が安定化してきたら、日常生活動作(ADL)や認知機能維持のため集中治療を継続しながらリハビリテーションを行います。人工呼吸器を装着したままリハビリテーションを行うことも珍しくありません。このような場面では臨床工学技士はリハビリテーションの実施に立ち会い、人工呼吸器などの医療機器の設定を調整したり、医療機器に不具合が発生しないように安全管理を行い、患者さんが安心してリハビリテーションに専念できるようにしています。

このように現在、臨床工学技士は集中治療を支える一つの重要な役割を、集中治療室の中で担っています。

2020年5月
日本集中治療医学会
理事 相嶋一登