TO JOIN THE INTENSIVE CARE TEAMインタビュー 吉田 拓生
略 歴
2007年京都府立医科大学卒。集中治療科専門医、救急科専門医、循環器専門医、総合内科専門医、医学博士、ヘルスデータサイエンス修士。2022年10月、東京慈恵会医科大学附属柏病院にて集中治療部が発足し、診療部長として着任。診療、研究体制の構築から、若手教育に至るまで日々奮闘中。個人としては、臨床と臨床研究を両立するPhysician scientistを目指して学び続けている。日本集中治療医学会やABCD-sonographyを通じて、心エコーを中心としたPOCUS教育活動にも従事している。

公開日:2025年6月1日 ※所属・役職等はすべて記事公開時点のものです

Q 集中治療の魅力とは?

集中治療室で出会う医療は実に多彩で、学ぶ内容に事欠きません。目の前の患者さんに対して、多くの事象を俯瞰しながらバランスを取り続ける必要があります。多くのスタッフと協働するコミュケーション能力も必要です。私自身は、一個の課題を深く掘るより、多くの課題を多くの人と整理していく方が好きでした。ならば、全臓器を俯瞰しながら多くの人と協働するような専門に進もうと思い集中治療を志しました。
集中治療を選んだ当時(2013年)、“集中治療医”という言葉はそこまで市民権を得ていなかったように思います。私自身は救命救急センターで後期研修を修了した後に、循環器内科医として修練をしていた頃でした。一般外来、救急初療室、一般病棟、集中治療室、カテーテル室、手術室、色々経験した中で、最も仕事としての充実感があったのは病棟管理で、その中でも集中治療室が一番やりがいを感じる環境でした。その上で循環器内科医になるか、集中治療医になるか、迷っていた際に、集中治療を経験した循環器内科医よりは、循環器内科を経験した集中治療医の方が、人材としての希少性が高い、と打算したようにも思います。

Q 集中治療との関わり

臨床の時間の大半は、集中治療専属医として働いています。時々、アルバイトで救急車対応をしています。

Q この道に入って感じたこと

「これはウチの科じゃない」と言える病気が、ほぼ存在しないことが他科と違う特徴な気がしています。逃げない医者は純粋にかっこいいですし、自分は甘い性格なので、逃げ場が無く引き受けるしかない場所に我が身を置いている方が、逆に潔く立ち振る舞えて気が楽です。

自分を向上させ、かつ、自分が必要とされるような施設を。臨床医を続けながら研究も続けるphysician scientistな集中治療医で有り続けたい

Q これまで所属してきた施設を選んだ理由

自分を向上させ、かつ、自分が必要とされるような施設を選んできました。総じて、後者を重視してきたように思います。現在の施設は、「集中治療部立ち上げにあたり、責任者をやってほしい」と連絡を受け、かつ、丁度、転機を考える必要が出てきたタイミングでした。自分の身の丈と合わせ相当に悩みましたが、これまた一つのチャンスと思い引き受けさせて頂きました。地元の病院でもあり、故郷に医師として貢献したかった、というのもあります。

Q これから力を入れていきたい分野

臨床において、この分野だけ、というのは特にありません。目の前にわからない事があれば、その都度、調べ学び続けること、これがやりたいことです(が、なかなかできないことも多い)。臨床以外では、臨床研究(結果的に研究分野を絞れていない)、心エコー、肺エコーの教育活動、このあたりが今までやってきたことで、引き続き取り組んでいきたいです。

Q 今後のキャリア

キャリアに関して、何か大きな青写真があって進んできたわけではありません。ひたすら目の前の面白そうな事に、飛びついてきただけです。今は、イチ臨床医というだけなくICUの運営という仕事を頂いています。組織としての良い臨床が良い教育を生み、それが良い研究を生み、そして良い研究が良い臨床と良い教育を生む。施設としてこのサイクルをいかに回せるかが大事と考えており、日々チャレンジしています。個人としては、臨床医を続けながら研究も続けるphysician scientistな集中治療医で有り続けたいと考えています(結構大変ですが)。

職種間尊重の“文化”を醸成する

Q 多職種連携で大切にしたいこと

毎日多職種カンファレンスをしたり、診療情報の視認性を上げたり、職種間の情報の不均衡をなるべく小さくすることが大事と考えています。しかし、何より重要なことは、職種間尊重の“文化”を醸成することだと思います。システムは簡単に廃れますが、文化はそう簡単には廃れない。大小全ての取り組みは、その文化醸成の為にと考えており、結果的に、多職種連携で大いに診療を助けてもらっています。

Q 印象に残る経験

多くのことを整理していかねばならないICUの中で、自分一人だけで診療などできるわけもなく、同僚医師、同僚メディカルスタッフの方々に日々助けられています。毎日そう思うので経験談的なエピソードを上げるのが難しいです。

Q 次世代の仲間へのメッセージ

私自身が集中治療の師と仰いでいる方より言われたことで、自分の頭に残り続けているメッセージをそのまま載せます。
「たった一人でもいい、変えるべきことを少しずつやり続ければ、変わる」
「正しいことをし続ける。2割はどうしようもないが、2割ぐらいは賛同してくれる人たちがいるはず。あとは6割の風にたなびく人達をどうするか」
「何かについてきっちり調べること、それを他の人に話すこと、そのときに興味を持って聞いてもらえるように工夫することと、時間を守ること、文章にまとめること、知り得たことからリサーチクエスチョンを作ること、その妥当性を他の人に納得させること、実際に研究を行うこと」
日本の現状を見るに、これからも集中治療医の必要性はどんどん高まることと思います。困難なこともあるかもしれませんが、果てしなく広く深い集中治療の世界は一生を費やすに値する分野と信じています。

Q 10年後の自分へ

自分のキャリアを振り返り、10年後、どこで何をしているか全く想像もできません。知的好奇心を掻き立てられ、かつ、人から必要とされるような日々が暮らせていれば幸せかな、と思います。