TO JOIN THE INTENSIVE CARE TEAMインタビュー 松井 憲子
略 歴
2013年急性・重症患者看護専門看護師(CCNS)取得、2021年東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科5年一貫制博士課程修了。 現在は東北大学病院高度救命救急センターにて看護師長を務める。

公開日:2025年9月10日 ※所属・役職等はすべて記事公開時点のものです

Q 集中治療の魅力とは?

集中治療の道に入ったのはふとしたきっかけでしたが、当時、10年間も働いてきたにもかかわらず自分はまだ何も知らないのだと気づかされ、集中治療を学ぶ動機づけになりました。集中治療室の片隅で、自分の意思では何も伝えられなくなっていた患者さんと出会い、いろいろ考えさせられたことが、ここまで来る原点になっていると思います。
集中治療の魅力はたくさんありますが、患者さんとの関わりのなかで自己の成長につながるところ、医療スタッフと最善の救急・集中治療を目指すところは大きいと思います。

Q 集中治療との関わり

高度救命救急センターで看護師長をしながら、急性・重症患者看護専門看護師としても、多職種間の調整や倫理的課題の解決、意思決定支援、研究などの活動を行っています。

Q この道に入って感じたこと

目の前の患者さんとご家族のニーズを的確に捉え、患者さんの回復力を引き出す看護の力をいかにして発揮できるのか、考え続けています。私たちが関わるのは患者さんの人生のほんの一瞬に過ぎないのですが、入院前からずっと繋がる患者さんの物語、取り巻く人々との凝縮した時間の中に詰まっている大切なものを感じながら看護に繋げていくことが、集中治療の現場にも必要だと思っています。

問い続けているテーマはPICSの予防と回復。そのための多職種連携・協働を調整するのが、スペシャリストとしての役割

Q これまで所属してきた施設を選んだ理由

学生時代の実習施設だったことが当院に就職した理由でしたが、支えてくれる仲間や看護職だけでなく、医師や他の職種、他部門のスタッフや環境に恵まれたことが、これまで働き続けられた理由です。また、大学院に進学し尊敬する恩師と仲間に出会い、学びを深めたことは、クリティカルケア領域で働き続ける原動力になっています。

Q これから力を入れていきたい分野

10年以上問い続けている研究テーマは、集中治療後症候群(Post Intensive Care Syndrome:PICS)です。重症な患者さんであれば誰もがなり得るPICSの予防と回復促進のためには多職種連携・協働が必須であり、そのための調整はスペシャリストの重要な役割と考えます。また、患者さんの身体状況だけでなく、尊厳を守り、生活や価値を考慮した最善の医療提供のための意思決定支援は、家族支援とあわせてクリティカルケア看護の要と考えています。いずれも、個人とチーム、それぞれの連続性が鍵を握っていると思います。

課題の多い集中治療の現場で、専門看護師が師長である強みを生かし、看護職がいる意味を言語化していきたい

Q 今後のキャリア

難しい課題が次々やってくる待ったなしの臨床現場でアウトカムを改善していくためには、組織変革と臨床研究の強化が重要だと感じています。患者さんの救命と回復過程を支える集中治療、集中治療後のフォロー・PICS外来、救命困難な終末期・・・、課題は満載ですが、専門看護師が師長役割を持つ強みを生かし、私たち看護職がいる意味を言語化していくことに挑戦していきたいです。

Q 多職種連携で大切にしたいこと

お互いの強みを認め合い、患者さんを中心に据えたコミュニケーションを大切にしたいと考えています。この当たり前のことが自施設でできているかと言われれば、道半ばです。焦らずあきらめず、対話の文化、倫理的文化を定着させたいです。

Q 印象に残る経験

PICS外来は、医師・CCNSで地道に継続してきて、多施設共同研究にもつながりました。その他、日常的に、困難な意思決定、人工呼吸管理からの離脱困難事例など、医師・看護師をはじめリハビリテーション部門や重症患者対応メディエーターなどの多職種の専門的視点が入ることの価値を実感する日々です。チーム連携で患者さんが元気になったときの達成感は格別です。

Q 次世代の仲間へのメッセージ

元の生活に戻れる人ばかりではない集中治療では、喜びや達成感だけでなく、悔しさや無力、悲しみを感じることが多いのも事実です。でも集中治療室には、その思いと経験を次の救命に活かせる仲間と環境があります。一期一会の日々の中で、患者さんとご家族とともに回復を目指せる集中治療室へ、一人でも多くの方が飛び込んできてくれることを願っています。

Q 10年後の自分へ

多くの方々に支えられてここまできた、そんな思いを抱かせてもらえる今に感謝して、そしてチームの力を信じて、もう少し頑張ってみたら?と言いたいです。あの頃に戻りたいと思っているかもしれないけど…。