ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

-257-SY18-7 PICC 論文山形大学医学部附属病院 検査部・感染制御部森兼 啓太末梢挿入型中心静脈カテーテル(Peripherally inserted central catheter, PICC)の有用性を検証するため、PICC または中心静脈カテーテル(Central venous catheter, CVC)を挿入された患者における、カテーテル関連血流感染(CR-BSI)などのカテーテル留置中合併症に関するデータを収集し比較した。2005 年から2007 年まで、8 施設よりデータ収集を行った。PICCを挿入された患者群(以下PICC群)は277例、CVC を挿入された患者群(以下CVC 群)は276例であった。PICC・CVC の選択は各医療施設の基づき、無作為化は実施しなかった。Primary outcome はカテーテル関連血流感染(Catheter-related bloodstream infection, CRBSI)であり、その診断基準は国立大学附属病院感染対策協議会のものを用いた。PICC群に35件、CVC群に53件のCR-BSIが発生し、1000カテーテル日あたりの発生率はPICC群で5.6、CVC群で7.0 とPICC群に低い傾向を認めた。挿入後7 日以内に抜去されたカテーテルのみのCR-BSI 発生率は、PICC 群で1.6、CVC群で2.6 と差が拡大したが、有意差は認めなかった。両群をひとまとまりにしたCR-BSI発生のリスク因子に関するロジスティック回帰分析では、カテーテルがPICCであることが感染リスク低下因子であった(オッズ比0.55、p=0.019)。挿入時の合併症では、CVC群で気胸5 件、動脈穿刺2 件が生じた。PICC 群ではそれらは生じなかったが、刺入部からの出血が26 件とCVC 群(6 件)に対して有意に多かった。留置中の合併症では、PICC群に静脈炎が32件、皮膚刺入部の痛みが13 件発生し、いずれもCVC 群(0 件、4 件)に対して有意に多かった。抜去理由では、CVC 群において発熱(51 件)や敗血症疑い(29件)がPICC群(32件、15 件)より有意に多かった。得られたデータを元にした推計では、本研究の対象と同数の553 人の患者群において全員にPICC を使用したと仮定した場合、CVC 使用の場合と比べてCR-BSI発生を39件減少させ、抗菌薬を約1600 万円、入院日数をのべ約820 日削減させることができると推定された。以上、PICC とCVC の使用に関するCR-BSI を含めた合併症を多面的に比較することができた。また、PICCのCVC に対する有用性が示唆されるデータが得られ、このデータなどにもとづいて、2010 年の診療報酬改定においてPICC の保険償還価格13,800円が設定された。それまでは標準型CVC としてSingle lumen1,740 円、Multi-lumen2,870 円の設定であり、医療施設においてPICC を使用する障壁が一気に低くなったと言える。SY18-8 VAE サーベイランス、VACデータ管理の感染症管理応用京都大学医学部附属病院 感染制御部高倉 俊二 人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発症にはさまざまな院内感染管理上の因子が複雑に関与する一方で、正確に診断を下すことはきわめて困難である。それゆえにVAP は診断よりもVAPと「みなして」広域抗菌薬が開始されることが極めて多い。開始された抗菌薬は改善がなければ終了も変更もできず、改善すれば効果ありとして継続される。このような状況は耐性菌の選択増殖によって感染管理をより困難な状態に陥れ、かつ、広域抗菌薬の必要性を強化する。つまり人工呼吸管理は、感染伝播防止策徹底の難しさと広域抗菌薬使用の悪循環から逃れがたい。 したがって、ICUの感染管理においては「抗菌薬をどれだけ使用抑制・中止・de-escalationできるか」、その中でも抗菌薬を開始するに至るような人工呼吸管理下の悪化イベントをいかに減らすか、減らせるかが大きな軸となる。この目標に対して感染管理側は従来から、VAPを診断し発症数・発症率をモニタリングする、という切り口からアプローチしてきた。しかし、この数年での人工呼吸器関連事象(VAE)サーベイランスへの大きな流れは、VAPサーベイランスが必然的に執着せざるを得なかった、肺炎だという診断の拘束から距離をおき、「広域抗菌薬を使用せざるを得なかった状況」を対象としている点で画期的な転換である。言い換えれば、VAP という“ 目に見えない敵”を可視化させる物差しがVAE やVACの基準であるとも言える。そのデータは発症例・発症率のモニタリングのためのものであるが、より広い視野から捉えると、人工呼吸管理下における呼吸状態の悪化と抗菌薬の開始・変更という事象そのものを捉え、それらの背景・誘因・きっかけは何だったかを、感染症か否かという束縛から離れて探索するツールになるはずである。