ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

-189-EL4大阪府立母子保健総合医療センター 集中治療科竹内 宗之症例:敗血症性ショックに陥った50 歳男性。大量の輸液、ノルアドレナリンとバゾプレシンにて血圧を維持しているが、水分バランスはどんどんプラスになり、もともとの体重は65 kg であるが身体はむくんできている。鎮静され、気管挿管されているが、努力呼吸が著明になってきて、SpO2 は低下し90% を維持できなくなった。現在の人工呼吸器設定は、FIO2 1.0, PEEP 10, プレッシャーサポート10、呼吸数は40 回、一回換気量は300mL である。ガイドラインに乗っ取って治療を開始するのも悪くないが、まずは、この患者の呼吸器系に起こっている現象を理解してみよう。(1)なぜ100%酸素吸入でも酸素化が改善しないのか?低酸素血症を起こすメカニズムとしては、肺胞低換気、拡散障害、換気-血流不均等、シャント、が存在する。100%酸素を投与しても著しく低いPaO2 しか得られない場合には、ほぼシャントが原因である。そして、後天的かつ急性に発症するシャントの原因は肺胞虚脱である。つまり、本症例では、肺胞虚脱が起こっていると考えられる。(2)なぜ肺胞虚脱が起こるのか?敗血症のように内皮細胞が障害される状態では、間質水腫や肺胞水腫が起こる。その結果、肺の重量は増加し、胸腔内の圧は重力方向下向きに増加し、荷重域の肺胞周囲の圧は上昇する。肺はその中と外の圧差で拡張しているので、肺の外側の圧が大きくなると肺は虚脱しやすくなる。虚脱を防ぐためには、持続的に肺胞内圧を胸腔内圧よりも高く設定する必要があり、そのためにPEEPが必要である。(3)なぜ喘いでいるのか?PaCO2 を一定に保つためには、分時肺胞換気量を一定に保つ必要がある。しかしARDS では、肺コンプライアンスが減少しているだけでなく、胸郭浮腫と腹圧の上昇により胸郭コンプライアンスも減少している。その両方を人工呼吸器と患者の吸気圧の和によって、拡張しなければならない。そのため、人工呼吸器の圧補助が十分でなければ、患者の呼吸仕事は増大し、喘ぎ呼吸が始まる。それを防ぐためには、適切な人工呼吸補助を行う必要がある。(4)患者の欲求どおりの換気を行えばよいのか?ARDSの患者では、しばしば換気ドライブが亢進している。その欲求どおりの圧補助を行うことは安全なのだろうか?健常人のTotal Lung CapacityはFunctional Residual Capacity の約2.5倍程度の容量がある。つまり肺胞が自然呼気位の約2.5倍以上に拡張することは、非生理的であることが想像できる。動物実験では、このような換気は肺傷害を発生させることが示されている。ARDS では、FRC が小さいため、一回換気量を多くとることは肺傷害を起こさせる。それを防止するため、深鎮静や筋弛緩などが必要になることがある。起こっている現象を理解すれば、必然的に行うべき呼吸管理が見えてくる。そしてそれは、全ての患者に一律にガイドラインを当てはめるのではなく、個々の患者に適した換気設定ができる第一歩であると考える。教育講演 4 2月12日(金) 9:00~9:50 第3会場ARDS患者における人工呼吸中の呼吸生理EL5岡山赤十字病院 麻酔科時岡 宏明人工呼吸器は、マイクロプロセッサーが内臓されるようになってから流量制御やトリガー機構などの基本的な機能が飛躍的に向上した。それに伴い多くの換気モードが開発され、人工呼吸管理は新たな時代に突入した。しかし、新しい換気モードの利点・欠点、有用性の評価が明らかでないため、臨床の現場に混乱を招いた。また従来から使用されている基本的な換気モードにおいても、さまざまな問題点が浮かび上がった。ここでは、代表的な換気モードの問題点を、生理学的な基礎的な観点から、また臨床におけるエビデンスの観点から解決を探る。1. 換気モードの開発と混乱、臨床上どの換気モードが必要なのか?2. 調節呼吸の問題点、ARDSにおける有用性と横隔膜筋力の低下・筋組織の委縮の欠点は?3. Volume control ventilationの問題点、流速が同調性と呼吸仕事量に及ぼす影響4. Pressure control ventilationはvolume control ventilationより圧外傷が少ないのか?予後を改善させるのか?5. SIMV(synchronized intermittent mandatory ventilation)とPSV(pressure support ventilation)を呼吸仕事量の観点から比較する。6. PSV のARDS における注意点、経肺圧を考える。7. 理想の換気モードとされたPAV(proportional assist ventilation)は、優れた同調性によりPSV を凌駕するのか?基本的な換気モードの問題点を明らかにした。それぞれの換気モードの利点・欠点を熟知することにより、ガス交換能の維持、患者と人工呼吸器の同調性の改善、呼吸仕事量の軽減、ventilator-induced lung injury の回避など行うことが可能となる。臨床の現場においては、個々の患者さんのガス交換能と肺・胸郭のメカニクスあるいは呼吸中枢の問題などの評価を行うことにより、患者さんに適した換気モード、患者さんに即した人工呼吸管理が可能となる。教育講演 5 2月12日(金) 14:40~15:30 第3会場換気モードの基礎と臨床、その問題点を探る