P-1 ICU・CCU診療とエラー管理

 

1医療法人 医真会八尾総合病院

森 功1

 

我々のグループで検索した21ヶ月のデータによれば、医療現場での事故発生率は平均的病院(救急・臨床研修等指定・総合・急性期・>300床・2.5:1看護・平均在院日数 18日など)では約400件/年/施設と推定される。そのうち診療にかかわる医師からの事故報告は6%程度であり、未だ報告の文化は医師群には定着していない印象がある。一方、看護は転倒転落19%・誤薬17%への関与を除いても23%に見られ深刻である。これらの中には集中治療室での事故も少なくない。アイソレイトされた集中治療現場での看護職を中心とする日常作業での事故防止対策を提示する。更に、医師が犯す医療過誤は事故案件を医療事故調査会にて同僚審査的に鑑定し、意見書として公的な場に提出している。それらのケースの多くは診療工程においてICU・CCUでの診療を受けている。多くの場合は集中治療に持ち込まれるまでの医療過誤が原因であり、集中治療が手遅れといった観のあるケースである。集中治療における医療過誤は前述の主として看護職・臨床工学士などのコワーカーが関与する作業手順における種々の事故が最も多いが、医師の関与する診療のピットフォールに依拠したり、集中治療の深層に存在すべき防護が破綻して起こるものもまた散見され、何らかの対応がなされなければならない。病院感染は集中治療現場では最も深刻な課題の一つである。しかし、病院内での継続的サーベイランスを実施し、公開している施設は稀有である。集中治療室医療のように内容が濃厚でタイムリミットが厳しく、チーム医療が必須とされる現場では総合的集中治療の診療工程設計管理が重要であるが、その体制が明確になっている病院は未だ5%に満たないのではないかと思われ、各施設での診療レベルの客観的評価が学会を中心として行われるように期待する。集中治療室での診療のスイスチーズ様現象はまさに日本の医療の持つ実態の縮図でもある。このままでは今後に予定されているDRG/PPSなどによる出来高払い制度から包括支払制度への医療経済の本質的転換が実施されるとさらに被害が拡大する可能性がある。学会等での監査制度が準備されなければ医療機能評価機構の病院機能評価にその任務を委ねることになる。しかし、それは評価機構の作業自体が病院・医療管理学を土台としているという性格から“各診療・医療の質の評価”に言及するのが不十分なきらいがあり、アウトカムとしては歯抜け状態になる可能性がある。そういう観点からして医療の質評価には専門学会の責任が問われているのであり、集中治療学会もまたその責を負うことになるのであろう。

 


 

P-2 ICUにおける医療安全確保の工夫

 

1横浜市立大学医学部附属病院 集中治療部

磨田 裕1

 

ICUは医療安全管理面からみると病院内high risk部門のひとつである。薬の投与量のわずかな違いや、一瞬のチューブはずれなどが、重大な結果を引き起こす。そのため、ICUでは院内の他部門とは違った対策も必要になる。ここでは、医療安全上、当院ICUで取り組んできたこと、工夫してきたことの経緯や問題点などを紹介する。【従来からの取り組み】 「事故ノート」「はっとノート」に記録し、それぞれについて対策を立て、改善できるところは実行してきた。しかしながらそれらの実施記録や、実施後の評価が十分に行われたとはいえなかった。【現在の取り組み】 当院での患者取り違え事故以来、院内各部門での改革が進められ、その一環として、ICUでも「事故予防マニュアル」の再編と改訂を行った。すなわち、従来から「輸血マニュアル」「医療機器安全取り扱いマニュアル」などが存在していたが、これらの評価、改訂とともに「ICU事故防止・安全対策マニュアル」として統合した。内容には、《投薬・輸血》、《チューブ・ライン類の誤抜去・自己抜去》などが含まれる。【インシデントレポートの提出】 当院に「安全管理対策委員会」、「医療安全管理室」が設置され、院内の医療安全管理を統括するようになった。それに伴い、ICUで発生したインシデントも部門内だけでの検討でなく、「医療安全管理室」に提出するようになった。そこでの分析結果などは「リスクマネジャー会議」で定期的報告され、対応策が検討されている。【最近の実施例】手術室入室時と同様に患者確認を実施、非注射薬剤でのカラーシリンジ使用、希釈製剤の導入、動脈ラインへのラベル貼付、人工呼吸器緊急用「Emergency Bag」配備、人工呼吸器赤色電源コードの取り付け、間歇的下腿圧迫装置の導入、など。【人工呼吸器研修】 人工呼吸治療はICUで行われることが多いが、実際には様々な理由により一般病棟で人工呼吸が行われる場合も少なくない。また、ICUを退室して一般病棟に戻った患者さんで呼吸管理上のインシデントが発生することもある。このような現状に対応して、一般病棟ナースを対象に定期的に「人工呼吸器研修」として呼吸管理での安全管理についてセミナーを実施することになった。【問題点と今後の課題】 現在でも、インシデントレポートからはチューブ類の事故抜去、および投薬に関するものが多い。また、輸液ポンプやシリンジポンプの取り扱いに関連したインシデントも多く、これらは、機器の構造上の改良で減少させることも可能と思われた。また、中央部門であるICUには、診療各科の医師が出入りし、特に新研修医が診療を開始する頃には思いもよらないインシデントが発生する。これについては、研修開始時にオリエンテーションがあるものの十分な効果が上がっているとはいえず、今後の改善が必要である。


 

P-3 輸血に関するインシデントとリスクマネジメント

 

1大阪大学医学部附属病院輸血部

倉田 義之1

 

輸血医療におけるリスクマネジメントで最も重要なものはABO血液型不適合輸血(いわゆる異型輸血)である。しかしながら、異型輸血以外にも各種の輸血事故・ニアミスがある。阪大病院では日々蓄積されているインシデント・レポートをもとに輸血医療事故防止対策に取り組んでいるのでその一端を紹介する。1. 異型輸血 われわれは近畿の12大学病院における異型輸血実態調査を行った。日本輸血学会においても異型輸血の全国調査を実施し、防止対策に取り組み始めている。1)頻度 近畿の12大学病院の調査では1993年から1997年の5年間に26件の異型輸血が発生していた。全国調査においても1995年から1999年の5年間に回答のあった578病院中115病院(20%)で異型輸血が発生していた。2)時間帯 異型輸血が起こった時間帯はいずれの調査においても時間外に多く発生していた。時間外に多く発生する原因としては時間外輸血検査体制の不備、病棟における診療スタッフの不足であると考えられた。3)場所 いずれの調査でも病棟での事故が最も多く、次いでICU、手術室、救急外来の順であった。4)原因 異型輸血の原因は輸血時の血液バッグ取り違え・患者取り違えが最も多く、次いで輸血検査ミスの順であり、両者で異型輸血ミスの原因の大半を占めていた。2. リスクマネジメント 阪大病院ではリスクマネジメント委員会(RMC)を組織し院内の医療事故防止対策に取り組んでいる。2000年7月より各部署のコンピュータ端末を用いて容易に入力することができるインシデント・レポートシステムを立ち上げ、レポートを積極的に収集している。1)レポートの内訳 この10ヶ月間に377件のレポートが寄せられている。注射・点滴関係が85件と最も多く、次いで薬剤部調剤関係が63件、輸血関連が40件と続いている。2)輸血関連レポート 輸血関連では別の患者の検体を提出する検体間違いが13件と最も多く、次いで血液照射関連が11件などであった。3. インシデント・レポート対応 入力されたインシデントをもとに輸血部では対応策を検討し、防止策に取り組んでいる。1)検体間違いへの対応 RMCよりの緊急警告により検体間違いをしないよう注意を喚起しているが一向に減少していない。検体間違いは異型輸血に直結するため阪大病院では検体のダブルチェック(2回採血・提出)を基本としている。2)患者・血液バッグ取り違えに対する対応 輸血実施マニュアルを制定し、輸血前に血液製剤をコンピュータ端末でチェック(実施入力)、診療スタッフ2名でダブルチェック、ベッドサイドの血液型表示プレートでチェックなどの数段階のチェックを義務付けているが、マニュアル実施率は高くないと思われる。 異型輸血などの輸血関連医療事故は死亡に直結する。決められた輸血実施マニュアルを遵守することが事故防止に不可欠である。


 

P-4 事故防止へのデュアルアプローチ: ICUレベル及び病院レベルでの取り組みの必要性

 

1大阪大学 大学院 医学系研究科 社会環境医学

中島 和江1

 

ICUは、患者の重症度、高いレベルの医療技術や知識の必要性、使用する医薬品や医療機器の多さ、多職種が関与することなどの点から医療事故のハイリスク部署である。オーストラリアの多施設研究では、ICUにおけるインシデント(患者が傷害を被った事例及び傷害には至らなかった事例の両方を含む)の種類は、医薬品(28%)、手技・輸液ルート・医療機器(23%)、患者管理・環境(21%)、人工呼吸(20%)、ICUの管理(9%)に関するものとなっている。しかし、実際に患者に長期的な傷害を与えたものは、そのうちの10%程度であり、またICUで発生した事故のうちスタッフの過失が認められるものの割合は約30%という報告もある。

事故防止への第一歩は診療上の問題点を把握することである。そのためには院内にインシデントレポートシステムを構築し、これを活用しなくてはならない。実用的なインシデントレポートの条件として、報告を簡単に行なえることがまず必要である。また、複合的要因で発生する事故が少なからず存在することを考えると、職種や部署を越えた情報の収集が容易にできることも重要である。病院情報システム・イントラネットを用いたインシデントレポートシステムは、これら2つの条件を満たす有力なツールである。

情報を収集するだけでなく、各事例を根本的に分析した上で事故防止のためのアクションにつなげなくてはならない。この実施にあたってはICUレベルで対処できることと病院レベルで取り組むべきことを意識して区別する必要がある。例えば、注射薬の投与経路の誤りに関しては、ICUレベルでの対処はスタッフの知識不足に対する適切な指導、指示の出し方の標準化、安全な業務の手順(プロトコール)やチェックリストの開発とその遵守の徹底などが考えられる。一方、病院レベルでの取り組みには、安全性の高い医療用具の迅速な購入、薬剤部による注射薬混注業務の実施、優れたオーダリングシステムやバーコードシステムの採用、適切なスタッフ数の配置などが含まれる。この中には一朝一夕に解決できないものも少なくない。さらに、ICUのスタッフ以外による現場の巡回・点検は、第三者の目による安全手順の遵守の徹底と問題点の検出のために不可欠である。

以上、ICUレベルでの対処と病院レベルでの安全なシステムの導入という2つの事故防止アプローチを強調したが、ICU特有の状況についても知っておかなくてはならない。すなわち、ICUにおいてはささいなエラーが重大な事態になりやすいこと、「チューブ類の自己抜去」のように完全になくすのが困難な事故が存在すること、などである。事故防止の努力とともに、現実に事故が発生した場合に、それを重大化させないようにする一方、患者・家族に対して誠意をもって対応することも忘れてはならない。


 

P-5 当院ICUにおける医療用具のリスクマネジメントの工夫-Quality Control手法による問題解決-

 

1大阪大学 医学部附属病院 MEサービス部、2大阪大学 医学部附属病院 集中治療部

富田 敏司1、西村 信哉2、西村 匡司2、妙中 信之2、真下 節2

 

【はじめに】ICUにおいて使用される医療用具は多岐にわたり、それらを取り扱う医療スタッフも様々であるため潜在的なリスク要因は多い。特に直接患者と接している医療用具の不具合は、患者の生命をも侵しかねないため、使用・管理には厳密なリスクマネジメントが要求される。リスクマネジメントを円滑に行うための工夫として、生産現場で広く応用されているQuality Control手法があげられる。その手法には問題解決型と課題達成型の二つがある。今回、血液浄化装置および呼吸回路に関して、それぞれの手法を用いて工夫できた経験を得たので報告する。【問題解決型事例:血液浄化装置・回路の改良】K社製 血液浄化装置を使用して、持続緩除式血液濾過中にトラブルが発生した。1)回路を大気解放して患者に返血処理中、気泡センサーが動作しなかった為、危うく空気を送りそうになった。2)補充液の液切れセンサーオフ状態で、液切れのまま運転をした。1)はチューブが引っ張られたことにより気泡検知センサーとチューブの位置が微妙にずれて、センサーが動作せずに送血側ピンチバルブが閉じなかった。2)は補充液を交換する時、誤ってセンサーからチューブを脱着させてしたまま運転を再開した。アラームが作動したがリセットボタンを押して続行し、数分後に補充液が入っていないのに気づいた。この血液浄化装置はチューブをセンサー部分の溝に押し込んで使用する仕様で、何か外部から強い力が加わると位置がずれたり、はずれることがある。気泡検知センサーも液切れセンサーも同じ構造のセンサーであり、すぐにメーカーに対応を依頼した。その結果、センサー部にチューブがはずれたりしないように、小さなマグネット式の扉を取り付けた。さらに補充液ラインのチューブの折れやねじれによる閉塞を検出するための圧モニターラインが新たに付加された回路を使用し、その圧をモニターした。【課題達成型事例:成人用人工呼吸器ディスポーザブル回路の開発】当院では成人用人工呼吸器は主にM社製を使用して呼吸療法を行っている。ICUではスムーズボアをリユースし、他の病棟ではディスポーザブル回路を滅菌後使用していた。回路の院内統一を目指し、より軽量でかつ柔軟性・操作性に優れた呼吸器回路をメーカーに作成依頼し、試作品の使い勝手をICUで検討した。1年間使用してトラブルもなく、使い勝手も良かったため、ディスポーザブル委員会の許可を得て院内全体で使用している。【評価】血液浄化装置および回路は改良後、トラブルは発生していない。呼吸回路についてもスタッフをはじめ、長期間の人工呼吸器使用の患者さんからも好評を得た。【結論】医療用具のリスクマネジメントの工夫としてQuality Control手法による経験を述べた。今後も医療事故防止の為にはユーザーとメーカーの協力体制が一層重要である。


 

P-6 ICUにおける安全な輸液管理を考える~ダブルチェックを施行して~

 

1和歌山県立医科大学附属病院 救命救急センター 救急集中治療部

武野 明香1、山崎 尚美1、西口 知子1、小山 有美子1、岡室 優1、村松 由美子1、篠崎 正博1

 

(はじめに)集中治療の現場で使用される薬剤は緊急性が高く、そのほとんどが生命になんらかの影響を及ぼす。更に薬剤の使用頻度は一般病棟に比べ高く種類も多い。当ICUでは薬剤の作成、投与などについてのニアミスの報告があった。そこで現在行っている薬剤の作成・投与法などについて振り返り、今後どのような方法で薬剤の作成、投与、確認を行えばニアミスが減少するのか検討・実施したのでその結果をここに報告する。(方法)1)指示簿の申し送り方法の統一。2)点滴作成、更新、開始、投与量変更時には看護婦2人によるダブルチェックの施行。1)、2)をスタッフ全員に伝達・実施し施行前、施行後のニアミス報告件数、内容の比較検討を行った。(結果)上記1)、2)実施1ヶ月前の注射に関するニアミスの報告内容は滴数間違い、溶解間違い、ラベル間違いなど9件提出されていたが実施一ヶ月後にはニアミスの報告が1件となった。実施後に何度かダブルチェックができているかカンファレンスを行った。その結果スタッフより、業務を中断させてしまうという理由で点滴更新時、開始時にダブルチェックができていないこともあるという意見があった。そこでその都度ダブルチェックの重要性を話し合い実施の徹底を図った。(考察)点滴作成、投与などの重要性はスタッフ全員が認識していたが点滴量の多さや、業務の忙しさなどを理由に一人で点滴の作成、交換などをおこなっていたと考える。しかし点滴投与量・種類の多さ、作成方法の複雑さ、業務を中断させてしまうという思いがニアミスの原因だと考えられた。そこでスタッフ全員にダブルチェックの重要性を何度も説明することで必要性を理解しダブルチェックの徹底・ニアミスの減少に至ったと考える。今後もこの現状を維持しニアミスの防止に努める必要があると考える。(結語)薬剤のニアミスに対して輸液管理の全ての過程において看護婦2人によるダブルチェックの施行は、ニアミスを著明に減少させ有効であった。

 

 

 

 

 

 

 

S-1 人工呼吸管理に関する情報と実際の管理方法

 

1大阪大学 医学部附属病院 集中治療部

西村 匡司1

 

人工呼吸器の進歩には目をみはるものがあり、換気モードの種類も激増した。しかし、急性呼吸急迫症候群(ARDS)の生存率は人工呼吸器の進歩のようには改善してこなかった。1990年代にはいりARDSの生存率は改善傾向を示すようになった。医原性肺損傷に関する動物実験、CTなどの画像診断の進歩が呼吸管理に大きな影響を与えた。1994年のAmerican-European Consensus ConferenceによりARDSの定義が世界的に統一されたことも要因の一つであろう。1996年よりアメリカで行われた臨床研究は低一回換気量により生存率が改善することを示した。この報告は呼吸管理の概念に大きな転機をもたらした。生命を維持するために必要なガス交換を維持することは呼吸管理の重要な目標の一つであるが、それ以上に肺保護が重要であることが示されたことになる。さらには、新奇なモードではなく一回換気量を減らすことでARDSの生存率が改善したことは、呼吸生理、病態生理に基づいた管理がいかに重要であるかを証明した点でも意義深いものである。現在、さらに生存率を改善するためにさまざまな臨床研究がすすめられている。ARDS初期での副腎皮質ステロイドの大量療法は否定されているが、現在late phaseでの少量長期投与療法の臨床治験がほぼ終了に近づいている。Partial liquid ventilation (PLV)も理論的な推察から効果が期待された呼吸管理方法の一つである。小児では古くから用いられている高頻度換気療法もARDSに対する効果が検討されている。PEEP値については臨床データが集められている最中である。その他に、noisy ventilation、recruitment maneuverなども研究がすすめられている。アメリカばかりでなくヨーロッパでも多施設研究が行われている。腹臥位による呼吸管理方法はその一つである。論文にならなければ結果がわからないものもあるが、NHLBI/NIHがスポンサーとなっている研究の進行状況はwww.hedwig.mgh.harvard.edu/ardsnetで知ることができる。このように結果がより早く、より容易にわかることは歓迎すべきことである。しかし、一方でわれわれは情報に常に敏感であることを強制されるとともに、正しい情報を取捨選択する能力も要求される。現在時点で、呼吸管理についてどのような情報があり、どれを臨床に取り入れるべきかについて検討してみたい

 


 

S-2 経腸栄養法:最近の話題

 

1大阪大学大学院医学系研究科 機能制御外科学講座

井上 善文1

 

栄養管理についてのどの本を読んでも、いろんな偉い人の講演を聞いても、経腸栄養法は静脈栄養法よりも生理的だから、コストが安いから、合併症が少ないから、管理が容易だから、もっと積極的に実施すべきとの意見がほとんどである。果たしてそうであろうか。『コストが安い』ということは、現在の保険診療から考えると、病院の儲けが少ないということである。医療費削減が叫ばれているが、病院が儲からなくて経営ができないのであれば、その治療は意味がないと言えるかもしれない。給料も上がらない。『合併症が少ないから』、実はそうではない。経鼻胃管で経腸栄養をやっていて、誤嚥性肺炎を起こす場合も多い。不潔な管理をすると、MRSA腸炎だって起こる。経鼻胃管が気管に誤挿入されることもある.PEGで結腸を穿刺した症例だってあるし,空腸瘻造設症例でのイレウスや腸重積の報告もある.PEG留置症例でチューブ周囲の化膿する症例も高頻度である.高血糖による合併症も静脈栄養法と同じように発生する危険性はある.投与量によってはさまざまな欠乏症が発生することもある.『管理が容易だから』、実際に臨床で経腸栄養法を管理してみると、現実には静脈栄養法の方が管理は楽である。これは、大きな声で叫んでいる人は少ないが、実際に管理している者は誰しも感じているところである。代謝的に大きな問題のない症例では、静脈栄養法の場合には、定期的に輸液バッグを交換し、刺入部を消毒してドレッシングを交換し、輸液セットを交換するだけでよい。血糖管理がきちんと行われていれば、大きな合併症は発生しない。カテーテルの挿入も、器具の進歩とともに合併症は少なくなっているはずである。しいて挙げれば、静脈栄養法の感染予防対策にまだ問題が多い。一方経腸栄養法においては、いろいろ合併症がある。合併症というか、日常の臨床における細かな心使いが必要である。少しスピードを早くすると下痢が起こるし、経腸栄養剤の選択が適合しないと、お腹が張る。下痢なんかすると、特に寝たきりの患者では処置に手をとられる。チューブがよく詰まるので、定期的にフラッシュをしなくてはならないし、つまったら再開通させるために時間がとられるし。経鼻胃管が挿入されている患者に対しては、抜きはしないか(事故抜去)と心配しなくてはならないし、そのために手足を固定する必要もあるし。そう、普通に考えると経腸栄養法は、いいことはないのである。しかし、あえて、本日、経腸栄養法について講演しなければならない。なぜか、やっぱり経腸栄養法の方が『体にいい』のである。それはなぜか、どう証明されているのか、それについて、本講演では考えたい。

 

 


 

D-1 腸間膜裂孔によるイレウス術後に多臓器障害を合併した幼児例

 

1国立姫路病院 麻酔科・救急集中治療室、2国立姫路病院 小児外科

礒部 尚志1、片山 哲夫2

 

【はじめに】腸間膜裂孔によるイレウスは希な疾患であり、術前診断が困難である。同症の術後に横紋筋融解症、急性腎不全、ARDSなど多臓器障害を合併したが血液浄化を駆使した集中治療を行い救命し得た幼児例を経験したので報告する。【症例】3才男児 主訴;腹痛 現病歴;前日午後8時頃より急に腹痛、嘔吐、顔色不良を来たし、術当日午前0時半頃救急車にて救急搬送された。現症;顔色不良でぐったりしており、急速輸液を施行したが、改善せず。注腸透視で軸捻転症を疑い、また、腹部CTにて腸管拡張像を認め、緊急手術(午前3時)を行った。【手術経過】腸間膜に7×4cmの裂孔があり、絞扼性イレウスとなっており、これを解除し小腸の色調が軽度改善したため、小腸切除は施行せず裂孔を閉鎖して手術を終了した。術後、血圧60台とショック状態となり、輸液療法、ドパミン投与にて対処したが治療抵抗性のため、エンドトキシン吸収のエンドトキシンショックと考え、同日午前10時、再開腹術施行し、小腸切除を施行した。(切除腸管は約260cm、残存小腸は約180cm)【術後経過】手術直後より血圧は上昇し始め、ICU収容後PMXによる血液浄化療法を開始し、ドパミン減量がさらに可能となった。しかし、乏尿傾向であったためCHDFを早期に導入した。術後1日目に2回目のPMX療法を施行し少量の自尿が認められ、全身状態は改善しつつあるように思えたが、術後3日目より低体温が出現し、治療に抵抗した。術後4日目には全く無尿となり、アシドーシスが進行し、一時血圧が60台と低下し、ドパミン、ドブタミン、ジゴシンの投与を開始した。術後5日目SpO2が低下し肺水腫が認められたため、CHDFの除水量を増加させ、カルペリチド投与を開始した。同日、血中CPK値が215240 IU/l、CK-MB12160 IU/l、GOT3729 IU/l、GPT1343 IU/l、LDH4919 IU/l、アミラーゼ1141 IU/lと上昇しており、横紋筋融解症及び全身の組織障害の合併を考え、ハプトグロビンの投与とメチルプレドニゾロンの連日投与を開始した。術後7日目無尿は継続していたが、CPKは軽度低下し、その後徐々に低下した。血液データの改善と共に自尿が徐々に得られるようになり、術後15日目でCHDFより完全に離脱した。下肢を中心とした痙性麻痺が認められ、術後4週頃よりベットサイドでリハビリを開始し、同時に経管栄養にて栄養管理を行った。呼吸器からのウイニングも平行して行ったが気管分泌物が多く、抜管に難渋したが、術後6週で最終的に抜管できた。その後、歩行もスムーズとなり、術後99日目に独歩にて軽快退院となった。【まとめ】絞扼性イレウス解除によりエンドトキシンによる全身組織障害をきたしたが、CHDFを中心とした集中治療が有効で、救命し得た幼児例を経験した。

 


 

D-2 全身性炎症反応症候群における血中プロカルシトニン値と臓器障害

 

1大阪市立大学 医学部附属病院 救急部

吉田 玄1、行岡 秀和1、加藤 昇1、栗田 聡1、酒井 俊幸1、奥田 豊一1

 

【目的】我々は、全身性炎症反応症候群(以下、SIRS)症例において、血中プロカルシトニン(以下、PCT)値を測定し、PCTの感染(敗血症)の診断における有用性を既に報告してきた。今回は、SOFA scoreを用いて、PCT値と呼吸機能、凝固系、肝機能、循環、腎機能との関係を調べ、PCT値の臓器障害の指標としての意義を検討する。【対象及び方法】SIRS 35症例をACCP/SCCM consensus conferenceの診断基準に基づき、非敗血症16例、敗血症及び敗血症性ショック19例の2群に分け、血中PCT値を測定した。同日、SOFA score を算出し、臓器障害の数と重症度の指標とした。なお、全例気管内挿管中であったため、中枢神経系の項目は除外し、他の5項目との関係を調べた。感染の有無は血中エンドトキシン陽性、動脈血培養で病原性細菌が陽性、胸部X線撮影で肺浸潤像があり、かつ喀痰培養で細菌陽性、腹水等の培養で細菌陽性を感染ありとした。PCT値の測定は、LUMI test PCT(和光純薬工業)を用いて行った。相関分析にはSpearmanの順位相関係数を用いた。【結果】全症例35例のPCT値と臓器障害の関係は、呼吸機能(rs=0.553、p<0.01)、凝固系(rs=0.535、p<0.01)、肝機能(rs=0.427、p<0.05)、循環(rs=0.699、p<0.0001)、腎機能(rs=0.799、p<0.0001)のすべての項目と相関を認めた。非敗血症に限ると、呼吸機能(rs=0.607、p<0.05)、凝固系(rs=0.547、p<0.05)、循環(rs=0.649、p<0.05)、腎機能(rs=0.565、p<0.05)の4項目には相関が認められたが、肝機能では相関はなかった。敗血症及び敗血症ショックでは、循環(rs=0.585、p<0.05)、腎機能(rs=0.719、p<0.01)の2項目で相関が認められたが、呼吸機能、凝固系、肝機能の3項目では相関は認められなかった。【考察】血中PCT値の測定は、重症感染症の診断に有用であるのみならず、臓器障害の程度の指標となるといわれている。非感染症例のPCT値は全例で4ng/ml未満であったが、肝機能以外の項目で臓器障害の程度と相関した。従来より言われているように、呼吸器障害、ショックでは、必ずしも感染を伴わなくても血中PCT値が上昇するものと考えられる。また敗血症及び敗血症性ショックでは、循環、腎機能のみに相関が認められた。敗血症では血中PCT値が0.94~824ng/mlと高値であるが、ショックや腎障害を合併すればPCT値は著しい高値を示すようになると考えられる。

 


 

D-3 硬膜外モルヒネ投与による食道癌根治術の術中術後管理-至適モルヒネ投与量の検討-

 

1近畿大学医学部 麻酔科学教室

岩崎 英二1、宇野 洋史1、奥田 隆彦1、古賀 義久1

 

食道癌根治術は手術侵襲が頸部から胸腹部へと広範囲に加わるため,周術期の患者ストレスは極めて大きく術中・術後の適切な疼痛対策が重要と考えられる.今回,食道癌手術症例を対象として,硬膜外モルヒネの至適投与量について検討を加えたので報告する.【対象と方法】ASA 1~2の食道癌根治術症例(19例,男女比14:5,平均年齢65.5±6.1歳)を以下の3群に分けた.I群:硬膜外モルヒネ2mg単回投与,18mg4持続投与(n=5),II群:5mg単回投与,15mg持続投与(n=9),III群:10mg単回投与,10mg持続投与(n=5).患者入室後,Th6~9から硬膜外カテーテルを留置し,手術開始前にカテーテルより硬膜外モルヒネ単回投与に続いてディスポーサブル注入器を用いて48時間モルヒネ持続投与を開始した.麻酔は硬膜外併用のGOS麻酔とした.術後は抜管せずにICUに入室し,プロポフォールを用いて鎮静をはかり,Ramsayによる鎮静スコアが3~4になるよう持続注入量を調節した.プロポフォールは翌日の早朝に投与を中止し,呼吸器から離脱させて抜管した.ICU入室中の循環動態,鎮静・鎮痛効果について3群間で比較検討を行った.測定値は平均±標準偏差で表し,分散分析により危険率5%未満を有意差ありと判定した.【結果】鎮静スコアが3~4になるのに要したプロポフォール投与量は・群から順に3.8±0.2,2.3±1.1,2.0±0.7mg/kg/hとなり,I群が他群と比較し有意に多く,他の鎮痛手段を必要とする傾向も同様に多かった.一方,III群では血圧の低下を呈する症例が多い傾向にあった.抜管時間ならびに抜管後のPaCO2の値は3群間で有意な差を認めなかった.【考察】硬膜外へのモルヒネ投与は術後鎮痛法として確立されているが,至適投与量に関しては単回投与として2~10mgとさまざまな報告がみられ,一致した見解が得られていない.今回の結果では2mg単回投与では鎮痛効果・鎮静効果双方とも不十分であることが認められた.以上より食道癌手術のような広範囲に手術侵襲が及ぶような場合は,モルヒネ投与量も通常より多くの用量を必要とするものと思われた.しかし10mg単回投与のIII群では循環抑制作用が認められる傾向を示し,用量が過量になった場合の危険性も示唆された.【結語】食道癌術後管理における硬膜外モルヒネの投与量として,単回投与 5mg,持続投与 15mg/48時間が鎮静・鎮痛効果並びに循環動態の安定の上で至適投与量と考えられた。

 


 

D-4 穿刺法による経皮的気管切開キットの使用経験

 

1和歌山県立医科大学 救急集中治療部

那須 英紀1、篠崎 真紀1、乾 晃造1、中 敏夫1、川崎 貞男1、篠崎 正博1

 

長期化する呼吸不全患者管理において,呼吸負荷軽減および肺炎発症予防の面からも早期気管切開の有効性が示されているが,従来の気管切開法では術中出血や創部感染など合併症の問題や手技そのものに技術を要することから積極的な気管切開導入は敬遠されがちであった。穿刺法としては数回のダイレーションにより穿刺口を拡大するCiaglia法による穿刺気管切開キットがあるが,今回これを改良した1回のダイレーションにより気管切開口を広げるBlue Rhino気管切開キットを試用する機会をえたので報告する。(症例)当院ICUにて挿管人工呼吸中の患者2例(脳梗塞,および頭部外傷)に対してBlue Rhino気管切開キットを用いて気管切開を施行した。皮膚切開開始から気管切開終了まで1例は6分50秒,1例は12分00秒であった。術中の低酸素血症(SpO2<90の)や術中出血はなく処置に伴う合併症は認められなかった。気管切開後ともにウィニング可能であり抜去後も穿刺部位の肉芽形成による気道狭窄等は認められなかった。(結語)Blue Rhino気管切開キットによる穿刺気管切開は安全かつ迅速に気管切開を施行可能で,かつ抜去後のトラブルも少なく,一時的な気管切開チューブ留置にも有効であると考えられた。

 


 

D-5 生体部分肝移植術後に死亡した一症例

 

1大阪市立大学 大学院医学研究科 麻酔・集中治療医学教室

林田 和久1、東 浩司1、田中 克明1、西 信一1、西川 精宣1、浅田 章1

 

当院においては、2例の生体部分肝移植(LRLT)が施行された。2例ともにICUに入室したが、1例は再入室となり不幸な転帰となった。(症例)37歳男性。平成3年肝機能異常を指摘され、精査の結果、原発性胆汁性肝硬変(PBC)と診断された。ステロイド内服治療を試みたが改善せず、平成13年1月15日LRLTが施行された。術後早期は順調な経過であったが、5PODより急性拒絶反応が出現した。ステロイドパルス療法により軽快傾向となり、7PODにICUから一般病棟へ転棟した。その後も一般病棟で免疫抑制療法・ステロイドパルス療法を継続していたが、急性拒絶反応はコントロール不良で、16PODより肺炎を併発し呼吸状態が悪化したので、18PODに再度ICUへ入室した。入室時、CO 13.0l/min、PCWP 12 mmHg、CVP9 mmHg、ABP130/60mmHg、血小板数減少、PT延長、FDP上昇とDIC徴候が出現しており、直ちに挿管し人工呼吸管理を開始した。CHDも開始した。しかし、24PODより血圧が急激に低下し敗血症性ショックとなり、27PODには肺出血を併発し、31PODに死亡した。(考察)臓器移植後の急性拒絶反応は早期に診断しなければならない。一般のICUでは、全身状態がある程度落ち着いた時点で一般病棟への帰棟を考慮する。当施設では2例目のLRLTであり、臓器移植後の集中治療管理の期間や退室基準について他施設の状況を御教示いただきたい。

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D-6劇症肝炎症例に対する生体肝移植周術期でのIL-18の推移

 

1兵庫医科大学病院 集中治療部、2兵庫医科大学 先端医学研究所 生体防御部門、3兵庫医科大学 第1外科学教室

植木 隆介1、奥谷 龍1、谷本 賢明1、中谷 直美1、太城 力良1、岡村 春樹2、山中 潤一3

 

はじめにIL-18はIL-12と共同して、NK細胞を含むリンパ球からのINF-γを誘導とともに、IL-18はNK細胞の細胞障害性を増強する。これらは、感染防御に関与するとされるが、一方でIL-18は劇症肝炎等の炎症性組織障害の発生に関わり、肝移植においては、移植肝が機能するに従い低下を認めると報告されており、移植肝機能を評価する指標として有用性が検討されている。今回、我々は成人Still病(Adult Onset Still Disease、以後AOSD)の経過中の亜急性型劇症肝炎を合併した症例での緊急生体肝移植周術期にIL-12およびIL-18を測定し、その臨床的意義について考察したので報告する。症例呈示 20歳女性。身長151cm。体重49kg。現病歴:17歳時に発熱、紅色皮疹が出現しAOSDと診断された。その後、肝機能障害が出現し、入退院を繰り返していた。1カ月前より全身倦怠感が出現し、重度肝障害を認め緊急入院となった。血漿交換を施行したが肝性昏睡に陥ったため、亜急性型劇症肝炎の診断により生体肝移植が実施された。術前、IL-18 13606pg/ml、PT24.7%、総ビリルビン5.9mg/dl、CRP0.5U/l、GOT407U/l、GPT309U/lであった。IL-18は肝血流再還流直後に5289pg/mlと急激な低下をみとめた。術後2日目で9619pg/mlと再上昇を認めたが、その後は徐々に低下し、術後5週間目のICU退室時ではIL-18が1593pg/mlまで低下し、PT90.6%、総ビリルビン1.2mg/dlであった。また、IL-12は周術期を通じて検出感度以下の低値であった。考察若年性関節リウマチのうち発熱、皮疹、関節症状を3大症状とし、多彩な臨床症状を呈する全身型をStill病といい、成人でみられるものをAOSDという。IL-18は術前に異常高値を示しており、AOSDのような自己免疫疾患での劇症肝炎の発症への関与が推測された。しかし、肝障害についてIL-18と相乗効果を与えるとされるIL-12の増加が見られなかったことの解釈は今後の課題である。また、IL-18は再還流後に急激に減少し、移植肝の状態や拒絶反応に対する指標としての有用性が示唆された。

 


 

D-7 生体肝移植術後にタクロリムスが原因と考えられる難治性不整脈を認めた1例

 

1大阪大学医学部附属病院集中治療部

金 啓和1、西村 匡司1、西村 信哉1、藤野 裕士1、内山 昭則1、西田 朋代1、妙中 信之1、真下 節1

 

タクロリムスは臓器移植後によく用いられる免疫抑制剤である。副作用としては腎機能障害がよく知られている。稀ではあるが致死的な不整脈も惹起する。生体肝移植後にタクロリムスが原因と考えられる難治性不整脈を発症した症例を経験したので報告する。 症例は1歳2ヶ月、女児。身長77cm、体重10.9kg。生後まもなく黄疸、灰白色便にて発症、その後、黄疸の遷延、頻回の吐乳を認めるため阪大病院小児科受診、胆道閉鎖症と診断された。総ビリルビン値(T-Bil)は19.7mg/dlと高値であった。各種の保存的療法にても黄疸悪化する為生後5ヶ月、肝門部再吻合術施行、父親より生体ドナーとして部分肝臓器提供の申し出あり、1歳2ヶ月生体肝移植術施行された。 ICU入室後免疫抑制剤療法としてタクロリムスを投与し、タクロリムスの血中濃度が上昇するにつれて心房細動(Af)、心房性期外収縮(APB)などの不整脈が頻発するようになり、procainamide 、disopyramideにても改善認めず、入室後13日目には心室性期外収縮(VPB)が散発するようになった。不整脈に対しcibenzoline の持続静注を開始、一旦著効したかのように見えたが、入室後15日目には心室細動(VT)となり、電気的除細動を施行した。不整脈出現時のタクロリムスの最高血中濃度は23.8ng/mlであった。その後もAPB、VPCなどの不整脈を認めるため、cibenzoline の持続静注は続けていた。なお一旦低下したタクロリムス血中濃度が再び21.3ng/mlに上昇した時に再度VTを認めた。その際にcibenzoline の血中濃度も高値を示し、タクロリムスの血中濃度の上昇がVTの原因となったかどうかは定かではない。 タクロリムスは細胞内カルシウムに影響し、持続活動電位時間を延長させることによりQT延長症候群及びtorsades de pointesを惹起する。しかし、小児に関しての報告はほとんどない。成人でもAf tachycardiaを始め様々な不整脈を呈したといった報告はほとんどない。更にtorsades de pointesのような致死的な不整脈は高い血中濃度で発症すると報告されている。今回のように治療域内での濃度でも発症することを念頭におくことは臨床上重要である。

 


 

D-8 拘束性換気障害を伴った原発性硬化性胆管炎患者に対する生体部分肝移植術の周術期管理

 

1京都大学 医学部 附属病院 麻酔科、2京都大学 医学部 附属病院 集中治療部

瀬川 一1、古谷 秀勝2、馬屋原 拓1、正田 丈裕1、美馬 裕之1、足立 健彦2、福田 和彦1

 

挿管下の長期人工呼吸は呼吸器感染症の誘因となるが、特に移植術後のように免疫抑制状態にある患者ではその危険性が増す。今回我々は、高度の拘束性換気障害を合併した原発性硬化性胆管炎患者に対する生体部分肝移植術の術後に、非侵襲的陽圧換気(NPPV)を用いて、呼吸器感染症を併発することなく、約50日に及ぶ呼吸管理を行った症例を経験したので報告する。[症例] 24歳男性。身長175cm、体重45kg。5歳で肝機能異常を指摘され、11歳で肝硬変と診断された。16歳の時、原発性硬化性胆管炎(PSC)と診断された。さらに20歳で潰瘍性大腸炎を併発し、増悪時にステロイドパルス療法を2度施行された。内科的治療ではPSCの進行が止められないため生体部分肝移植を施行することになった。PSCに起因すると思われる著明な骨粗鬆症があり(bone mineral densityは正常値の17%)、繰り返す椎体の圧迫骨折とその変形治癒のため、胸郭が著しく変形し、高度な拘束性換気障害を呈していた(%肺活量:33.7%)。1年前に大腿骨を骨折し、以後寝たきり状態であった。術前から胸部CTで左S8、9及び右S2、6に無気肺がみられ、動脈血酸素分圧は空気呼吸下で68.9 mmHgと低値であった。手術中は、挿管下に陽圧換気を行い、吸入酸素濃度50%で動脈血酸素分圧は150mmHg前後 で推移した。手術終了直後の胸部X線撮影で右上葉の無気肺が認められたため、気管支ファイバースコープ(BFS)を用いて右上葉気管支を閉塞する喀痰を除去した。挿管のままICUへ搬送し、人工呼吸を行った。麻酔覚醒後、徐々に人工呼吸器からの離脱を進め、入室3日後に抜管し夜間のみNPPVを行ったが、喀痰の自力排泄は不良であった。5日目に再び右上葉の無気肺が認められたため、再挿管を行いBFSで喀痰の吸引除去を行った。この時、気管分岐部から左主気管枝にかけての軟化症が認められた。右上葉の無気肺はその後も持続したが、喀痰の量が減少してきたため、8日目に抜管しNPPVに移行した。以後無気肺は消失し、酸素化能も良好に推移し、12日目にICUを退室した。病棟では夜間のみNPPVを行っていたが、手術後49日目からNPPVからの離脱を図り、54日目には完全に離脱し、77日目に退院した。[結語]著明な拘束性換気障害を合併した、生体部分肝移植術の術後管理を経験した。術後、長期の呼吸管理を必要としたが、NPPVを用いることで、呼吸器感染症を併発することなく、管理が行えた。NPPVは移植術後の長期呼吸管理に有効と思われる。


 

D-9 原発性肺高血圧(PPH)に対して脳死両側片肺移植術が施行された1例

 

1大阪大学 医学部付属病院 集中治療部、2大阪大学 医学部 機能制御外科

金 啓和1、藤野 裕士1、内山 昭則1、西村 匡司1、西村 信哉1、南 正人2、妙中 信之1、真下 節1

 

症例は30歳、男性。身長168cm、体重50kg。1992年に労作時呼吸困難、運動時意識消失発作にて発症、93年原発性肺高血圧症(PPH)と診断された。NYHA 4度まで増悪したため、98年6月よりドブタミン、9月よりPGI2が開始された。移植前PGI2 61ng/kg/分、ドブタミン 1.85μg/kg/分投与下PAP 96/42(62)、RAP (4)mmHg、CI 2.73L/分/m2であった。1999年5月に日本臓器移植ネットワークに登録され、2001年3月19日、脳死ドナーからの両側片肺移植術が施行された。虚血時間は左6時間54分、右7時間2分であった。 ICU入室時術中から引き続いて37Frダブルルーメンチューブ下に、FIO2 1.0、SIMV mode 18/分、PCV 20cmH2O、PEEP 5cmH2Oで両肺換気を行った。NO 20ppm吸入、PGE1 20/1000μg/kg/分下にてmPAP24mmHgと肺高血圧の改善を認めた。換気と血行動態安定の為、翌朝シングルルーメンチューブに交換した。急性期に肺高血圧改善による右室拍出量の急激な増加を契機に高滲出性肺水腫になることを恐れ、propofol、morphineの持続静注により鎮静と筋弛緩(musculax 4mg/hr)を行った。入室後2日目の経食道エコーにてレシピエント側の右主肺動脈に狭窄を認め、肺動脈圧高値〔PAP35 mmHg〕、血液ガスの悪化も同時に認めた。原因検索の為肺動脈造影を施行。右肺動脈本幹部に血栓ないし解離様狭窄を認めたため、緊急手術を施行した。術中所見で吻合部より中枢側のレシピエント右主肺動脈後壁に解離を認め修復した。術後は右肺動脈の血流に大きな問題を認めなかった。入室後4日目に硬膜外チューブを留置し1%lidocine(20mg/hr)とmorphine(0.3mg/hr)により鎮痛をはかった。入室5日目に抜管した。抜管後、PaCO2は50台と高値であり呼吸様式もやや努力様であった。胸部レントゲン上左横隔膜の上昇を認め、左横隔神経麻痺の合併を示唆していたが、血液ガスは徐々に改善を認めた。入室8日目に軽快退室した。 肺移植術後急性期合併症としてpulmonary reimplantion response(PRR)と言われる肺水腫が重要である。PRRのリスクファクターは明らかにされていないが、(1)術前の肺高血圧(2)長い虚血時間(3)体外循環の使用が関係しているといわれている。本症例では上記すべてを満たしたため、術後急性期筋弛緩を用いた深い鎮静を行う必要があると判断した。本症例では術後PRRは発症しなかったが、術後管理上注意が必要と考えられる。参考文献 Am J Respir Crit Care Med 1997; 155: 789

 


 

D-10 Lymphangioleiomyomatosis(LAM)に対して脳死左片肺移植が施行された1例

 

1大阪大学 医学部付属病院 集中治療部、2大阪大学 医学部 機能制御外科

小野 理恵1、藤野 裕士1、内山 昭則1、西村 匡司1、西村 信哉1、南 正人2、妙中 信之1、真下 節1

 

症例は35歳、女性。身長153cm、体重43kg。特記すべき既往歴はない。1998年に労作時呼吸困難で発症した。2000年4月に生検の結果LAMと診断された。その後ホルモン療法、在宅酸素療法にもかかわらず呼吸器症状増悪し、肺機能検査ではFVC: 2.0L(71.6%)、FEV1.0: 0.56L、DLCO: 25.4%と著しい閉塞性障害を示した。血液ガスはPaO2: 69.2mmHg、PaCO2: 32.9mmHg(room air、sitting)であった。2000年12月に移植ネットワークに登録され、2001年1月、脳死ドナーからの片肺移植が施行された。ドナーは50歳代で、虚血時間は5時間59分であった。 ICU入室時、FIO2: 1.0、Assist Control: 15/min.、PCV: 20cmH2O、PEEP: 0cmH2Oで換気を行った。NO 20ppm吸入下でpH: 7.16、PaO2: 183mmHg、PaCO2: 78mmHgと著明な呼吸性アシドーシスを示した。32Fのダブルルーメンチューブが挿管されており、充分な気管内吸引ができない為の分泌物による気道閉塞が原因と考え、入室30分後にシングルルーメンチューブ(#7.0)に入れ替えた。気管支ファイバー下に吸引を行い、血液ガスはFIO2 1.0で、PaO2: 254mmHg、PaCO2: 64mmHgと改善した。入室5時間後、右呼吸音減弱し、胸部レントゲン撮影で右気胸を認めた為、胸腔ドレナージを行った。術後は利尿剤、hANPの持続投与により積極的に水分バランスが負となるように管理した。人工呼吸中はpropofpl、morphineの持続投与による鎮静、鎮痛を行った。その後人工呼吸器からの離脱をはかり、入室6日目に抜管した。抜管直後は頻呼吸であったが、呼吸数は徐々に減少していった。ドナー肺から緑膿菌が検出されており、レシピエントの喀痰からも緑膿菌が検出された為、感受性結果に基づいて、IMP/CS、CZOPを投与し、明らかな肺炎像は認めなかった。経過中、乳糜胸水は認めなかった。本症例は入室9日目に軽快退室した。 LAMは、気道平滑筋細胞の増殖により気管支の閉塞性変化が起こり、肺気腫性が進行する原因不明の稀な疾患である。閉塞性換気障害、気胸の合併、乳糜胸合併によって呼吸不全が進行する。生殖期の女性に起こることから、ホルモンの関与が示唆される。治療は抗estrogen療法が行われるが、有効でないことが多い。近年、移植による治療が試みられている。移植後の一般的合併症としては、肺炎、急性拒絶反応、閉塞性細気管支炎が、LAMに特異的な合併症としては、術後早期には片肺移植後の対側native lungの気胸、同側・対側の乳糜胸があり、遠隔期では原病の移植肺への再発が報告されている。本症例でも術後早期にnative lungの気胸が発生し、LAMに対する肺移植後急性期には対側気胸の発生や乳糜胸水を念頭において管理する必要がある。

 


 

D-11脳死肺移植後に移植肺の気管支狭窄に対し非侵襲的陽圧換気を施行した1例

 

1大阪大学 医学部付属病院 集中治療部、2大阪大学 医学部 機能制御外科

小野 理恵1、藤野 裕士1、内山 昭則1、西村 匡司1、西村 信哉1、南 正人2、妙中 信之1、真下 節1

 

症例は35歳、女性。身長153cm、体重43kg。1998年に労作時呼吸困難で発症し、2000年4月に生検の結果、肺リンパ脈管筋腫症(Lymphangioleiomyomatosis: LAM)と診断された。2001年1月に脳死ドナーからの左側片肺移植が施行された。ICU入室中、気胸の発生以外に問題点はなかった。 一般病棟へ転棟後は、酸素カニューラ1-2L/min.下にSpO2 94-100%で経過していた。術後18日目(POD18)に経気管的肺生検(TBLB)を行った際、移植肺である左肺に下葉気管枝から舌区枝の虚血性の粘膜変化を認めた。POD46の肺機能検査ではFVC: 1.15L(41.5%)、FEV1.0: 0.54L(47.0%)と閉塞性障害を示した。POD53に再びTBLBを施行した際、左下葉枝分岐部のスリット状の狭窄を認めた。生検は上葉で行った。病棟へ帰室した直後から呼吸困難感、頻呼吸(>30/min)が出現した。胸部レントゲン写真では、左下肺野の透過性低下と右肺の過膨張を認め、左気管支の狭窄が原因の呼吸不全と考えた。座位で酸素マスク 12L/min投与下でもSpO2: 80-85%であった為、非侵襲的陽圧換気(Noninvasive Positive Pressure Ventilation: NPPV)を施行した。BiPAP visionを用い、S/T mode、FIO2: 1.0、IPAP: 10cmH2O、EPAP: 4cmH2Oの条件で開始した。NPPV施行後速やかにSpO2: 95%に回復し、呼吸数も20/min前後に低下した。その後、呼吸管理を目的としてICU再入室となった。 ICU入室時、酸素マスク15L/min投与下で、血液ガスはPaO2: 149mmHg、PaCO2: 52.4mmHg、呼吸数: 25/minであった。胸部レントゲン上では左下肺野の含気改善を認めた。しかし右側臥位でSpO2の低下と呼吸数の増加とを認めた為、狭窄を予防する為にNPPVをS/T mode、FIO2: 0.5、IPAP: 10cmH2O、EPAP: 4cmH2Oの条件で再開した。SpO2 は97-100%に回復した。2時間30分間施行後、一旦NPPVを中止した。しかし中止直後より努力様呼吸が出現、増悪し、酸素マスク 10L/min. 投与下でもSpO2: 88%に低下した為NPPVを同条件で再開した。その後SpO2: 90代後半、呼吸数 15/min前後で推移した。5時間施行後NPPVを中止したところ、酸素マスク 5L/min投与下で呼吸数20/min 、SpO2: 100%で維持できた為そのまま経過観察とした。ICU入室翌日(POD 54)に左下葉気管支狭窄部の治療の為、ステント留置術を施行した。ステント留置後の胸部レントゲンで左下葉の含気改善が認められた。ICU帰室後は酸素カニューラ 1L/minでPaO2: 91.1mmHgで症例では、肺移植後に移植肺の気管支閉塞が原因である呼吸不全に対しNPPVを施行することで気管内挿管を回避できた。また、対側の気胸発症を招来せず、安定した状態でステント留置術に移ることができた。

 


 

D-12 GVHDの治療中に肺真菌感染症が原因と思われる肺出血をきたした神経芽細胞腫の1例

 

1大阪府立母子保健総合医療センター 麻酔科

瓦口 至孝1、木内 恵子1、萬代 裕子1、福光 一夫1、大川 恵1、北村 征治1

 

【症例】16歳の女性。身長157cm、体重27kg。平成11年2月、左副腎及び脊椎管内腫瘍として発症。同年3月、近医にて脊椎管内腫瘍摘出術を施行し、神経芽細胞腫と診断された。その後当センター内科にて化学療法さらに7月に父親から末梢血CD34選択細胞移植を施行した。平成12年1月には左副腎部の残存腫瘍に対して腹腔鏡補助下腫瘍摘出術を施行した。その後、微少残存腫瘍に対し父親より採取した活性化CD4細胞を定期的に輸注していた。それにともない皮膚GVHD症状が続き、免疫抑制剤を投与されていた。9月に高熱が続き、喀痰培養よりアスペルギルスによる真菌性肺炎と診断され、抗真菌薬投与を行った。しかし、発熱・CRP上昇および喘鳴など呼吸器症状が持続するため、GVHDの増悪および閉塞性気管支炎の合併と考えてステロイドパルス療法、免疫抑制剤、エリスロマイシンの投与を行ったところ呼吸状態は改善した。【周術期経過】12月1日吐血したため、消化管出血疑いにて全身麻酔下に消化管内視鏡施行した。その終了時に突然大量の気道出血をきたした。ダブルルーメンチューブに入れ換え、右肺の換気をブロックしたところ出血がおさまったため右の肺出血と診断した。そのままICUに収容し、筋弛緩薬投与下に左片認のため肺出血シンチおよび肺血管造影を施行したが、出血部位は同定できなかった。肺出血を起こす前の胸部レントゲンより右上葉が出血源である可能性が高いと判断し右上葉切除術を行った。中下葉からの出血の可能性を否定するため術野にて中間気管支管を確認したところ、出血を認めたため中下葉が出血源と診断し右肺全摘術となった。術前から術中にかけてとくに循環障害や低酸素血症は見られなかったが、術後腎機能、肝機能障害が徐々に進行し、さらに高度の脳障害を合併。多臓器不全となり術後5日目に死亡した。【考察】今回の症例における肺出血は、アスペルギルスに血管浸潤性があることから肺アスペルギルス症が原因と思われる。出血点の同定が困難だったこと、出血量から考えて比較的太い肺血管が破綻したこと、さらにGVHDのため免疫抑制剤投与を中止しにくかったことが治療を困難にしたと考えられる。


 

D-13間質性肺炎に対する人工呼吸管理の経験

 

1明石市立市民病院 麻酔科

上藤 哲郎1、中尾 博之1、森 美津子1、田中 佳子1

 

【緒言】特発性間質性肺炎は根本的な治療法がなく、予後不良な疾患であり一般的に集中治療の対象になることは少ないが、急性増悪時には集中治療室での呼吸管理の対象となることがある。われわれは過去10年間に10例の間質性肺炎急性増悪例の人工呼吸管理を行ったので報告する。

【対象および結果】10例の年齢は58歳から75歳、平均69歳、男性5例、女性5例であった。全例内科を介しての入室であり、診断は臨床経過、胸部単純レ線像とCT像よりなされていた。6例は間質性肺炎による慢性呼吸不全のため当院内科に通院中の増悪であり、4例は今回のエピソードがはじめての呼吸不全であった。

慢性呼吸不全のため内科通院中であった6例中2例は5日と11日間の人工呼吸の後抜管して軽快退室、退院した。しかし半年後と2年後に再入院して死亡した。2例は1日と6日間の人工呼吸のあと軽快退室したが、1ヶ月以内に呼吸不全のため病棟で死亡した。1例は9日間の人工呼吸の後抜管して退室したが、5日後再入室し16日後呼吸不全のため死亡した。1例は脳出血のため入室し、人工呼吸をおこなったが6日後呼吸不全のため死亡した。

今回のエピソードが初めてであった4例は、呼吸器症状の自覚より集中治療室入室までは1カ月から3カ月であった。4例中2例は鎮静下人工呼吸では安定しているが人工呼吸器よりは離脱できない状態で22日後と32日後に一般病棟へ退室し、その後心不全、呼吸不全にて死亡した。1例は初回は人工呼吸をおこなうことなく5日間で軽快退室したが、5日後再び悪化し、人工呼吸管理をおこなったが26日後心不全、呼吸不全のため死亡した。1例は7日間の人工呼吸より離脱できたが3日後再び悪化、その後消化管出血、多臓器不全を合併して死亡した。

退院を治療の成功とすると成功は2例、人工呼吸器よりの離脱と人工呼吸を避けられたことを成功とすると成功は7例であった。ステロイド大量投与は7例におこなったが、人工呼吸に関しては4例に一時的には有効、退院に関しては2例に有効であった。利尿が良好になることは人工呼吸に関しては4例に有効、退院に関しては1例に有効であった。

【結論】今回の検討で、集中治療室より軽快退室と言えるのは2例のみで従来の報告にあるように予後不良であり、特に急性発症型は4例とも人工呼吸より離脱できずに死亡した。ステロイド大量投与の効果は一定せず、心不全治療、水分管理に反応して一時的に軽快しても予後は不良であった。


 

D-14 ARDSに対してメチルプレドニゾロンの長期少量投与が有効であった1症例

1大阪大学 医学部 付属病院 集中治療部

朴 勝哲1

 

グルココルチコイドはその抗炎症作用のため、今日まで臨床的に数多く用いられてきた。急性呼吸促迫症候群(ARDS)に対しても応用されてきたが、短期大量ステロイド投与(パルス療法)の効果は否定されている1)。しかしMeduriらはARDS発症から1週間を経て肺の線維化が進む時期(late phase ARDS)での長期少量ステロイド投与が治療に効果的であると報告している2)。食道癌術後にARDSが発症し、メチルプレドニゾロン長期少量投与が有効であった症例を経験した。症例は68歳男性。身長162 cm、体重60 kg。既往歴に特記すべきものなし。食道癌に対して一期的根治術(3領域郭清)施行され、術後挿管のままICU管理となった。呼吸器からの離脱を図るも、翌日からは次第にSpO2が低下し始めた。気管支ファイバーを施行したところ、右中葉からの気道内出血を認めた。呼吸状態が悪化し続けたため、術後(POD)4日目に気管切開した。気道内出血、感染をトリガーとして生じたARDSと考えた。胸部単純X-P上、左葉を中心とするスリガラス状陰影が両側へと拡がり続け、胸部CT上は両側間質性肺炎像であった。POD 20にはFiO2 0.95、PEEP 10 cmH2O、PCV 15 cmH2OにてpH 7.299、PaO2 68.1 mmHg、PaCO2 93 mmHg、PaO2/ FiO2(P/F)比 71.7 であった。数回の喀痰培養が陰性であることを確認した後、同日メチルプレドニゾロンの長期少量投与を開始した。2 mg/kg/dayを14日間投与した後漸減し、合計32日間投与した。投与開始4日目より呼吸状態が改善していき、換気条件もステロイド投与終了後には、FiO2 0.55、PEEP 7 cmH2O、PCV 17 cmH2OにてP/F比 194 mmHg、投与終了後92日目にはFiO2 0.4、PEEP 4.5 cmH2O、PCV 13 cmH2Oにて、PaO2 142.8 mmHg、PaCO2 55.6 mmHg、P/F比 357 まで改善した。胸部単純X-P上も両肺とも陰影が改善した。気管切開O2投与下に自発呼吸が可能な状態まで回復し、人工呼吸器より離脱した。ARDSの致死率は高く、現在までに多くの治療が試みられてきた。低一回換気量による呼吸管理以外に死亡率の改善が証明されたものはない。グルココルチコイドもその一つであり、これは逆に致死率を悪化させると考えられている。Meduriらはlate phase ARDSに対し、長期少量ステロイド投与が有効であると報告している。今回我々はMeduriらの報告をもとに、late phase ARDSに対してメチルプレドニゾロンの長期少量投与を試みたが、有効な結果が得られた。ARDSの急性期が過ぎ人工呼吸器からの離脱に難渋する症例ではlate phaseにおいて長期少量メチルプレドニゾロン投与は有効な治療法の可能性がある。<参考文献>1) Jantz MA. and Sahn SA. ;Am J Respir Crit Care Med 160:1079-1100,1999 2) Meduri GU. et al ;JAMA 280:159-165,1998

 

 


 

D-15腹臥位による体位ドレナージ施行に一致して病変の増悪が認められた小児ARDSの一例

 

1大阪市立総合医療センター 救命救急センター

石田 治1、林下 浩士1、氏野 博昭1、宮市 功典1、尾方 章人1、村瀬 順哉1、久次米 剛1、韓 正訓1、重本 達弘1、 吉村 高尚1、鍜冶 有登1、土師 一夫1

今日の集中治療の現場では,急性呼吸不全患者の背側無気肺の改善を目的として,腹臥位による体位ドレナージが積極的に行われている。 しかし,今回腹臥位の施行と肺病変の拡大が時期的に一致し、背側無気肺の存在,即腹臥位による体位ドレナージの実施という考え方に疑問を呈した症例を経験したので報告する。 患者は1歳0ヵ月の女児,体重約10kg。前日より咳がみられ,翌日夕より発熱,しだいに意識レベルが低下し,呼吸状態も不規則となったため,近医を受診したが突然外来で呼吸停止を起こし挿管され,当院救命救急センターに搬送された。 搬入時,四肢麻痺はなく,瞳孔左右とも2.5mm,対光反射迅速。呼吸は浅速であり,動脈血ガス検査でpH 7.340, PaCO2 27, PaO2 53mmHg, Base Excess -10mmol/L (FIO2 1.0) と重度の低酸素血症を示した。また気管より血性,泡沫状の痰が吸引された。体温は,39℃と高熱を示した。 胸部X線所見では,両肺野の透過性の低下があり,胸部CT所見では,両側の背側無気肺が認められたが,その他の肺野には明らかな異常所見は認められなかった。病因としては何らかのウィルス性疾患による肺炎と考えられた。 低酸素血症の主因と考えられる背側無気肺に対して,人工呼吸管理下のもと腹臥位による体位ドレナージ施行に努めた結果、P/F ratioは200から240に改善したものの,胸部CTでは背側無気肺は残存したままであった。入室2日目にはP/F ratioは200から300前後で推移していたが,3日目にはP/F ratioは100以下となり,再度腹臥位を施行したところPaO2 26mmHgと低下し,胸部X線所見ではすりガラス様陰影が出現していた。胸部CT所見では背側無気肺はほぼ消失していたものの,正常であった含気のある肺野に間質陰影が出現し,肺野の過膨張と無気肺が混在していた。 以後,ステロイドパルス療法および人工呼吸モードの変更など呼吸機能の改善に努めたもののP/F ratioは60前後と低値のままであり,胸部CT所見の推移では,両肺野全体に間質の肥厚,気管支の拡張が認められるようになり入室27日目に死亡した。なお病因は,現在不詳のままである。 今回,対照的な背側無気肺に対し施行した腹臥位の施行が呼吸機能の急激な悪化と時期的に一致し,無気肺の解除が全肺野に病変部位を拡大させた可能性が十分に考えられた。 腹臥位による体位ドレナージの実施は,症例の病因などを考慮にいれ,今後よりいっそう慎重に実施しなければならないと考えられた。

 


 

D-16アルコ-ル性横紋筋融解症による急性呼吸不全の1例

 

1兵庫医科大学 救急災害医学・救命救急センタ-

山内 順子1、丸川 征四郎1、切田 学1、細原 勝士1、上野 直子1、米田 雅洋1、平田 淳一1、横山 陽子1

 

アルコール多飲が原因と思われる急性ミオパチーにより呼吸不全に陥った1症例を経験したので報告する。【症 例】49歳 男性 既往歴:特記すべきことなし現病歴:平成12年10月17日朝、両側大腿背面に誘引なく疼痛と脱力が出現し起立不可能となった。近医を受診し入院の上経過を観察されていたが、疼痛域は同日中に背部から両肩へと拡大した。翌18日午前、呼吸苦が出現し、動脈血ガス分析にてPaCO260.9mmHgと炭酸ガス貯留を認めたため気管内挿管され、当院救命救急センターに紹介搬送された。来院時、意識は清明であったが呼吸困難が強く、呼吸数26回/分と頻呼吸であった。視診・触診上、横隔膜運動に異常はないが胸郭運動が極めて弱く、両側肋間筋の筋力低下が認められた。簡易測定にて一回換気量(VT )は100~150mlであった。両側腸腰筋に軽度の筋力低下および両側下腿に筋トーヌスの低下があったが、四肢運動機能に異常はなく、脳神経異常、錐体路症状、知覚障害、失調運動なども認められなかった。血液生化学データではCKが88,223 U/lと増加、血中ミオグロビン26,800 ng/ml、尿中ミオグロビン927,400 ng/mlと高値で、横紋筋融解症による呼吸筋力低下と診断した。前駆症状として風邪などのウィルス感染はなかった。大酒家で、普段から1日にビール大ビン3~4本と焼酎お湯割り2~3杯を摂取していたが、「最近飲酒量が増えていた」と筆談により聴取し、横紋筋融解の原因を急性アルコール性ミオパチーと考えた。肋間筋生検で横紋筋組織の変性・壊死が確認された。【入院後経過】人工呼吸管理、Washout療法を行なった。呼吸筋力の回復は緩徐で、約2週間の換気補助を要し、第20病日に軽快・転院した。【考察】急性アルコール性ミオパチーは急性横紋筋融解症を呈し、突然重篤な筋脱力、筋痛で発症する。栄養障害よりもエチルアルコールの筋への毒性による障害であり、慢性飲酒者が大量のアルコールを数日以上続けて摂取することによりおこるといわれる。本例では呼吸筋の筋力低下が遷延したことが特徴的であった。

 


 

D-17 食道癌術直後に判明したたこつぼ型心筋症の1治験例

 

1兵庫医科大学病院 集中治療部

平島 佳奈1、奥谷 龍1、植木 隆介1、芝 誠治1、太城 力良1

 

たこつぼ型心筋症は臨床的に急性心筋梗塞と類似した所見を呈する心筋症で左室壁の収縮異常を示すものの、約1週間で収縮異常は改善する疾患として報告されている。本邦での報告が主であり、本疾患に相当する海外での用語は認められない。今回、我々は術中より急性心不全あるいは心筋梗塞が疑われ、術後心エコーにてたこつぼ型心筋症と診断された興味深い症例を経験したので報告する。症例は75歳男性で食道癌に対し胸腔鏡下胸部食道抜去術及び胸骨後胃管再建術が予定された。術前心電図では完全右脚ブロックを認めたが、負荷心電図で異常はなかった。術中手術操作による心臓圧迫により、一時収縮期血圧が50mmHg台、心拍数40/分となり、ドパミン投与にて血圧を維持し、術後ICUに入室した。ICU入室時の心電図上ST-Tの有意な上昇を認め、急性心筋梗塞を疑い硝酸イソソルビド、ドプタミンの持続注入を開始した。しかし、胸壁心エコーでは左室壁運動は心尖部を中心に高度の収縮低下および心基部の収縮亢進を認め、急性心筋梗塞というよりたこつぼ型心筋症が疑われ、ドブタミンの投与を中止したところ左室流出路の圧較差の著明な改善を認めた。その後、循環動態は安定し、問題なく経過した。たこつぼ型心筋症発症の誘因として、カテコラミンの過量投与が考えられ、心電図変化、血圧低下といった急性心筋梗塞を疑わせる所見がある場合、心エコー検査による心機能評価が治療方針決定上重要であると痛感した。


 

D-18 血管内視鏡が診断と治療戦略に有用であった急性心筋梗塞の一例

 

1近畿大学 医学部 第一内科

清島 尚1、林 孝浩1、松浦 真宜1、内藤 方克1、森井 秀樹1、谷和 孝昭1、山田 覚1、黒岡 京浩1、木村 彰男1、谷口 貢 1、金政 健1、石川 欽司1

 

今回,我々は血管内視鏡を用いることにより粥種崩壊とは異なるいわゆる“びらん”が心筋梗塞発症に関与し,その病態から治療戦略を変更し,その後良好な経過を辿った症例を経験したので報告する.症例は48歳男性.平成13年2月8日,歩行中に前胸部圧迫感出現し,安静でも症状が軽快しないため近医受診し,入院となった.心電図ではST上昇を認めなかったが,心筋逸脱酵素の上昇と心エコーで左室前壁の壁運動異常を認めたため,急性心筋梗塞の診断で当院CCUに転院となった.冠動脈造影検査では梗塞責任冠動脈と考えられる左冠動脈前下行枝は自然再開通していたが,seg 7に90%狭窄を認め,血管内エコーではやや低輝度エコーのプラークで満たされ,造影検査および血管内エコー上,同部位が梗塞責任病変と考えられた.血管内視鏡検査では90%狭窄部は表面平滑な白色内膜が観察されたのみで,狭窄部近位側に低隆起性の黄色プラークと発赤,赤色,白色および混合の壁在血栓を認めた.冠動脈解離や亀裂,フラップは観察できなかった.血管内エコーでも同部位にlipid coreを疑わせる所見を認めず,冠動脈解離,亀裂も認めなかった.以上から本症例の梗塞発症機序に90%狭窄近位側の低隆起性黄色プラークとその部位のびらんの関与が示唆された.梗塞責任病変はseg 7 90%狭窄部ではなく,その近位側の狭窄のない部位であること,造影遅延なく再開通していること,病変部位を刺激することが得策でないと考えたこと,から最狭窄部位に冠動脈形成術を施行せず保存的治療で経過観察した.経過観察中に胸痛出現はなかったが,発症26病日に運動負荷心筋シンチグラムを施行したところ前壁から心尖部に再分布像を認めた.そのため発症35 病日に冠動脈形成術目的で心臓カテーテル検査を施行した.冠動脈造影では急性期と同様に左冠動脈前下行枝seg 7に90%狭窄を認めた.急性期の内視鏡所見でびらんを認めた病変は,淡黄色板状プラークを認めるも,びらんや血栓は消失していた.Seg 7の90%狭窄部位に対してS670 3.0×15mmのステントを挿入し,その近位側は血管径が4.5mmあったことから4.0mmのバルーンで後拡張し,冠動脈形成術を終了した.血管内視鏡を用いることにより,心筋梗塞発症期序として“びらん”が関与したと考えられる興味ある症例を経験した.また血管内視鏡により冠動脈造影検査や血管内エコーでは判定できなかった心筋梗塞部位が正確に同定でき,その病態から治療戦略を変更し,良好な経過が得れた. 血管内視鏡は心筋梗塞発症機序としての粥腫崩壊とびらんを正確に鑑別できる可能性があり,急性期治療戦略を選択する上でも有効な診断デバイスと思われる。


 

D-19大動脈解離による左主幹部急性心筋梗塞を引き起こした2症例および治療戦略

 

1大阪警察病院 心臓センター内科

竹田 泰治1、金銅 伸彦1、上田 恭敬1、山元 博義1、黒飛 俊哉1、矢吹 正典1、水野 裕八1、小松 誠1、柏瀬 一路1、清水 政彦1、大谷 朋仁1、飯沼 義博1、平山 篤志1、児玉 和久1

 

[症例1]46歳男性。平成12年4月25日突然背部痛出現し救急搬送された。心電図から左主幹部急性心筋梗塞(LMT-AMI)を疑い、緊急冠動脈造影を施行、LMT 100%閉塞を認めた。PTCAにて開大を試みるも再閉塞を繰り返したため、大動脈造影を行い、上行大動脈から下行大動脈にかけflap様陰影欠損を認めた。以上所見より、Stanford A型の大動脈解離に冠動脈解離が合併し、それにより左主幹部急性心筋梗塞を併発したと考えられた解離性動脈瘤(DAA)に伴うLMT-AMIと診断し得た。左心機能悪く手術困難にて同日死亡した。[症例2]66歳女性。平成13年3月13日突然背部痛出現し救急搬送された。心電図より急性心筋梗塞を疑い、緊急冠動脈造影・さらに大動脈造影を施行した。冠動脈造影にてLMTに99%閉塞を認め、大動脈造影にて上行大動脈から下行大動脈にかけflap様陰影欠損を認めた。これによりDAAに合併するLMT 99%閉塞と診断し、同部位に対してstent留置をおこない開大に成功した。しかし左室機能回復を認めず手術困難にて、翌日死亡した。DAAに合併するLMT-AMIは様様な報告あるいは解剖的特性により極めてまれであると考えられるが、発症早期に心原性ショックに陥るため診断が困難であり救命率も低い。今回我々はLMT-AMIを合併したDAA2例を経験したので、治療戦略に対する考察を加え報告する。

 


 

D-20自動除細動器により病院内蘇生を行った一症例

 

1大津市民病院 救急集中治療部

鶴田 宏史1、福井 道彦1、天谷 文昌1、小尾口 邦彦1、下里 豪俊1

 

【はじめに】救命可能な成人の心停止のほとんどはVF / VTであり、時間経過とともに除細動の成功率が低下する。国際蘇生法連絡委員会 (IRCOR) 勧告にもとづいて2000年に改訂が行われたAHAガイドライン(G2000)では、早期除細動治療の重要性が強調されている。Automated External Defibrillator (AED)は、非医療従事者による安全な早期除細動治療の実施を目的として開発された機器で、一次救命処置への組み込みも提唱され、諸外国では、現在急激な速さで配備が進みつつある。当院でも、早期の除細動治療を目的としてAEDの病院内配備を行なった。今回、当院内においてAEDを用いて蘇生を行なった一症例を経験したので報告する。

【経過】当院一階救急外来と三階集中治療室に二台のAED (Physiocontrol社製LifePak500 )を 配備した。慢性腎不全にて一般病棟入院中の、81歳、男性が心肺停止状態となり、発見後、直ちに蘇生治療が開始された。同時に救急集中治療部にも蘇生治療の応援依頼があり、医師がAED持参にて現場に到着、直ちにAEDを用いた除細動治療を開始し、患者の自己心拍が再開した。応援医師到着から一回目の除細動までの時間は59秒、心拍再開までの時間は6分52秒であった。

【考察】AEDは、本体重量2.76kgと可搬性に優れ、作動開始にて自動的に音声と心電図波形を本体に記録するという高い記録能力を有している。心電図自動診断機能も備え、操作も簡便である。今回も、高い可搬性と簡便性が、除細動実施までの時間短縮に寄与したと考えられた。今後、病院内においても、AED取扱いの訓練を受けたスタッフ数と、配備数を充実させることで、さらなる早期除細動治療の実施/救命率が向上する可能性が示唆された。


 

D-21小児開心術後におけるPiCCO®を用いた連続心拍出量測定の有用性

 

1大阪市立総合医療センター集中治療部

中尾 美保1、安宅 一晃1、嶋岡 英輝1、中田 一夫1、佐谷 誠1

 

はじめに:近年,心臓外科手術の成績向上に伴い適応が拡大され,術後においてもより厳重な管理が必要とされている.なかでも循環動態の把握は重要で,そのために種々のモニターを用いて総合的に判断する必要がある.特に小児では,肺動脈カテーテルを用いた心拍出量の測定など比較的簡便に用いることができる循環モニターが少ないために,重症症例では治療に難渋することも少なくない.今回我々は,小児にも使用可能な循環モニターとして,肺経由動脈熱希釈法と圧波形解析を用いて連続心拍出量を測定するPiCCO®を使用した.その使用経験について小児開心術後における有用性とともに報告する.対象と方法:対象は小児開心術後症例のうち根治術を行った4例である(ASD2例,VSD2例).方法は大腿動脈に4Frの動脈熱希釈カテーテルを留置し,PiCCO®本体に接続した.まず,熱希釈法で心拍出量を測定し,その後動脈圧の圧波形分析から連続心拍出量を算出した.同時に胸腔内血液容量,肺血管外水分量を測定し,臨床経過と比較した.結果と考察:対象の年齢は1歳が3例,5歳が1例であった.体重は8.1~13.1kgであった.4例はICU入室時には最高血圧は平均89.8mmHg(85.0~92.0mmHg), 中心静脈圧は平均7.8mmHg(7~10mmHg)であったが,6時間後はそれぞれ平均110.0mmHg (107~114mmHg),平均8.8mmHg(8~9mmHg)であった.6時間後,前負荷が維持され血圧が上昇していたことから心収縮力の増加による心拍出量の増加が予想された.一方,ICU入室直後の心拍出量係数は平均3.1L/min/m2(2.6~3.8Lmin/m2)と やや低値であったが,6時間後には平均3.8L/min/m2(3.5~4.0Lmin/m2)へと上昇しており,臨床経過とも一致した.さらにPiCCO®による心拍出量は連続モニターであることから循環動態の早期の把握は容易であった.また4例ともにカテーテル挿入に伴う合併症はなかった.このようにPiCCO®による連続心拍出量測定は小児の開心術後におけるモニターとして有用であると考えられた.今後は体重が8kg以下の症例,PH crisisの予想される重症例,Fontan術後などにも臨床使用可能であるかどうかの検討を加えていきたい.


 

D-22 人工心肺離脱後、大動脈-橈骨動脈圧較差が遷延した一例

 

1関西医科大学 麻酔科

佐登 宣仁1、久保田 知子1、新宮 興1

 

人工心肺離脱時に橈骨動脈圧が大動脈あるいは大腿動脈などの中枢動脈圧より低値を示すことがあるが、1時間程度の経過で圧較差は消失することが多い。20 mmHgを超える大動脈-橈骨動脈圧較差が人工心肺離脱後約3時間持続した症例を報告する。【症例】80才、男性。不安定狭心症。CAGにてLMT#5 99%を含む冠動脈狭窄および右冠動脈低形成を認めた。IABP挿入のうえ、緊急手術となった。【経過】プロポフォール、フェンタニルにて全身麻酔を行った。低体温・人工心肺下にCABG(3枝)を施行した。復温しIABPによる循環補助を開始した。橈骨動脈圧低値であったがIABP先端大動脈圧が高値であり、大動脈圧を指標として人工心肺より離脱した。この時循環作動薬としてドパミン、イソプロテレノール、ニトログリセリン、プロスタグランディンE1を投与した。離脱直後、大動脈圧105/38、橈骨動脈圧44/33、肺動脈圧28/9、中心静脈圧6mmHg、心係数(CI)2.5 l/min/m2、混合静脈血酸素飽和度(SvO2)80%、経食道エコー上左室壁運動は良好であった。しかしながらその後、乳酸アシドーシスの進行により血行動態は不安定となり人工心肺離脱後帰室までの約4時間に計380 mEqの炭酸水素ナトリウムを投与した。乳酸値は最大17 mmol/Lに上昇した。この間、CIは2.0‐2.1 l/min/m2、SvO2 70-74%であった。橈骨動脈圧は人工心肺離脱3時間後に至るまで低値であり最大圧50-60mmHg、脈圧10-25mmHg、大動脈橈骨動脈最大圧較差30mmHg前後で推移した。また、肺酸素化能の低下を合併し、PaO2/FiO2=0.7-0.8であった。閉胸後手術室にて経過観察し手術終了1時間30分後ドパミンの増量によって、心拍数130、CI 3.1 l/min/m2、SvO2 83%となるとともに橈骨動脈脈圧の増加と利尿の再開をみた。ICU入室後、ノルエピネフリンの投与を開始し血行動態は安定した。呼吸不全が遷延したが、術後3日目にIABP抜去、術後19日目に抜管し、術後58日目に退院した。【考察】人工心肺離脱時の大動脈圧-橈骨動脈圧較差の発生には、末梢血管の拡張あるいは収縮が関与しているといわれるが本態は明らかではない。本症例の血行動態、乳酸アシドーシスの進行はいわゆる"warm shock"に類似していること及びドパミンの増量により圧較差が減少したことから、本症例での大動脈圧-橈骨動脈圧較差の成因には血管拡張の関与が考えられた。


 

D-23術後一過性の反回神経麻痺を呈した、SVC症候群患者

 

1 京都大学 医学部 附属病院 麻酔科、2京都大学 医学部 附属病院 集中治療部

美馬 裕之1、篠村 徹太郎1、瀬川 一1、古谷 秀勝2、正田 丈裕1、七野 力1、足立 健彦2、福田 和彦1

 

周術期の反回神経麻痺は、上気道閉塞の原因として重要である。今回、我々はSVC症候群による頭頚部の浮腫の増悪が一時的な反回神経麻痺を引き起こし、低侵襲手術にもかかわらず術後気管内挿管による管理を余儀なくされた症例を経験したので、報告する。【症例】63才、男性。SLEの診断にてステロイドを内服しているほかは、特に既往はない。近年、頭頚部の浮腫が目立つようになり精査したところ、CTにて肺門部から上縦隔にかけて腫瘍が認められ、生検を目的として胸腔鏡手術が予定された。【術中経過】麻酔はプロポフォール、ベクロニウムにて導入し、気管内挿管はブロッカー付きチューブを使用し、気管支ファイバースコープでブロッカーの位置を確認した。麻酔の維持は笑気、イソフルレン、ペンタゾシンにて行い、術中のバイタルサイン、動脈血液ガスデータに異常はなかった。術中は左側臥位とし、手術終了後仰臥位に戻したが頭頚部が術前に比べて著しく腫脹し、特に左側で顕著であった。組織浮腫による抜管後の上気道閉塞のリスクを考え、気管内チューブはそのまま留置し、ICUに収容した。【術後経過】術後翌日、意識清明、浮腫はやや軽減し、バイタルサイン等に異常を認めなかったため、抜管した。抜管直後よりいびきが聞かれ、2時間後頃より努力様呼吸となり、呼気時にうなり声が聴取されるようになった。次第に呼吸困難感が顕著となったため、抜管6時間後に再挿管を施行した。再挿管時にファイバースコープにて喉頭を観察した所、声帯は両側ともに正中に固定し、吸気時に振動するような動きがみられ、両側反回神経麻痺と診断された。術前CTを検討した結果、右鎖骨下動脈及び大動脈弓周囲部に腫瘍を認め、SVC症候群及び周術期の浮腫による腫瘍の神経圧迫が増悪したと考えた。再挿管後2日目(術後3日目)、頭頚部の浮腫が著明に軽減したため、再抜管を試みたところ、上気道閉塞の症状はなく、ファイバースコープにて声帯の開閉運動も観察できた。経過観察の後、術後6日目にICUを退室した。【考察】浮腫の軽減と共に声帯の動きが回復したことから、浮腫の増悪が腫瘍による神経の圧迫を増強させていたと考えられる。周術期の反回神経麻痺は頭頚部腫瘍及びその手術がその原因としてよく知られているが、今回の症例では生検が目的であり、反回神経走行部位を直接障害することもなかった。しかし、浮腫が著明なため術直後の抜管を見送りICUに入室させたのは結果的に幸運であった。本患者では神経走行部位近傍に腫瘍が既に存在しており、反回神経麻痺の可能性を考えておく必要はあったかもしれない。【結語】低侵襲手術にもかかわらず、一時的に両側反回神経麻痺をおこした症例を経験した。SVC症候群による浮腫の増悪が原因と推定された。


 

D-24左前胸部刺創による心タンポナーデで開胸し、術中に肝切創が発見された出血性ショックの一症例

 

1滋賀県立成人病センター麻酔科

鬼頭 幸一1、大東 豊彦1、多淵 八千代1、笹井 三郎1

 

【症例】27才男性。身長160cm、体重70kg【現病歴】6月19日14時30分頃左前胸部を包丁で刺され、自力で車を運転して近くの救急病院を受診。意識状態、全身状態の悪化のため気管内挿管され、心エコーにて心臓刺傷が疑われた。輸液、カテコラミン投与などにより収縮期血圧80mmHg まで回復したため、18時に当院に転送された。来院時の意識レベルは III-300、対光反射(-)、アニソコリー(-)であった。18時20分手術室に入室、血圧 85-30mmHg、心拍数105bpm、CVP30mmHg、Hct9% であった。腹部膨満が認められたが精査することなく、ショックの原因を心外傷性心タンポナーデと考え緊急開胸術が予定された。【術中経過】心膜を切開すると横隔膜挙上による心臓の突出が認められた。心嚢からは200-300 mL の血液が、左胸腔内からは2Lの血液がそれぞれ吸引されたが、心臓と左肺には損傷を認めなかった。心嚢の横隔面に3 cm の切創があり、横隔膜の切創部を通して腹腔から血液の噴出が認められた。開腹により腹腔内から更に血液2Lが吸引された。血圧が 50-30 mmHg に低下し、心マッサージを施行しつつ腹腔内を検索すると肝外側区域に切創が認められた。肝切創縫合術が施行され、サージセル圧迫を追加して手術を終了した。この間急速輸血を行い循環動態はほぼ正常に維持された。手術時間:2時間50分。術中出血量 :6900 mL。術中輸血:MAP16単位、セルセーバー返血1300 mL、FFP 20単位。手術終了時には、 Hct は36% であり、心房細動および急速輸血によると思われる低体温(33.8℃)が認められた。【術後経過】ICU 帰室後2時間で体温は36℃に回復し、心房細動 は 洞調律 に戻り、意識も回復した。術後肝機能障害(GOT/GPT= 260-160 / 350-200 IU/L、総ビリルビン 6.2-1.2 mg/dL)、貧血(Hct = 27-31%)が認められたが経過は順調であった。第2病日に抜管され、第3病日より食事を開始、第11病日に退院となった。【結論】本症例では腹部膨満の原因が精査されないまま、刺創の部位と心タンポナーデの存在から、出血源は心臓であると考え、緊急開胸による血腫の除去後も心・肺に損傷は無く、結局開腹し腹腔内血腫除去と肝切創縫合術が行われた。刺創は、前胸部より心臓をかすめ心臓や肺を損傷することなく横隔膜を貫通して、肝外側区域に達していた。加害者は馬乗りになって右手で包丁を振りかざし、患者の左前胸部を刺したものの、包丁の先端部は左手前方向に刺入されたため、心嚢、横隔膜、肝に切創を生じたと思われた。根本に肝切創からの大量出血による出血性ショックがあり、これに腹腔内に貯留した大量の血液の一部が心嚢内および左胸腔内に逆流して2次的に心タンポナーデと血胸が加わったものと考えられる。


 

D-25集団発生の嘔吐症で混合性アシドーシスを来し集中治療室に入室した3例(集中治療室入室時の誤判定)

 

1日本赤十字社和歌山医療センター 救急集中治療部、2日本赤十字社和歌山医療センター 緊急検査室

堀口 真仁1、辻本 登志英1、戸城 仁一1、磯合 裕美2、松岡 徳登2、千代 孝夫1

 

水泳合宿中に集団発生した嘔吐症のため、当センターには2000年12月29日未明より昼までに75名の救急患者が来院した。このうち嘔吐、全身倦怠症状の強かった30名が入院となった。さらに血液ガス分析を行った20名のうち3名において、pH7.1台、Pco2 46~56mmHg、HCO3- 16~21mmol/L、BE-8~-12mmol/Lと混合性アシドーシスを認め、3名ともに傾眠傾向であったため集中治療室に入室した。なお、この時の血液ガス分析はコーニング社(現バイエルメディカル)製288を使用、再検は別病棟にある同型機を用いた。入室後動脈ラインを留置し、前回測定より3時間後に血液ガス分析を再度行ったところ、pH、Pco2、HCO3-、BEともに正常範囲であった。患者の一般状態は傾眠傾向である以外、変化はなかった。嘔吐症は当日、傾眠傾向は翌日に改善し、血液ガスデータにも異常所見は認めなかったため、12月30日に集中治療室を退室した。その他の血液データの異常は、白血球減少、ビリルビン軽度上昇のみであった。急速に正常化した血液ガスデータに関しては解釈できないまま、12月31日に退院となった。今回の症状で入院した他の患者もほとんどがこの日までに退院した。中毒物質解析では異常物質は検出されなかった。後日、アシドーシスを認めた血液サンプルは血球計算用の採血管に一旦注入してから再度動脈採血管に移したものであることが判明した。この血球計算用の採血管にはEDTA-2カリウムが添加されており、これによりアシドーシスを来したことが判明した。今回の経験より得られた反省として、(1)EDTA-2カリウム中の血液を動脈採血管に移し替え、検査室に依頼したこと(血液が凝固しないため検査可能と考えたとの解釈であった)(2)患者が集団発生し、救急外来に殺到したため異常データに正確な考察が下せなかった(3)当センター集中治療室が原因不明の集団発生の嘔吐症とアシドーシスに過剰な反応を持っていたこと(1998年7月発生の砒素中毒による)があげられる。【結論】血球計算用の採血管に注入した血液のガス分析は、EDTA-2カリウムによりアシドーシスをきたす。

 


 

D-26胸部大動脈瘤に対する人工血管置換術後の両側不全対麻痺にナロキソン投与が有用であった一症例

 

1兵庫医科大学病院 集中治療部、2兵庫医科大学 胸部外科学教室

鍛冶 正範1、奥谷 龍1、植木 隆介1、平井 康純1、太城 力良1、和田 虎三2、八百 英樹2

 

はじめに:演者らは術後に不全対麻痺を生じた症例に対しナロキソンを投与後麻痺が改善した症例を経験したので報告する。症例:56歳男性。3年前より高血圧を指摘されたが無治療であった。検診にて胸部単純X線上、異常陰影を指摘されたため、胸部CT検査を施行し、多発性胸部大動脈嚢状瘤と診断された。既往歴に53歳時に脳梗塞があり右不全麻痺を認めたが術前は改善していた。今回、胸部下行大動脈人工血管置換術が予定された。術前検査:血液生化学検査では特に異常を認めなかった。手術経過:右半側臥位、SEP、脳脊髄液圧モニター下に手術を施行し、部分体外循環を併用した。術中SEPの変化は大動脈遮断時に一時的に平坦化したが徐々に回復し、術終了時には元の波形に回復した。術後経過:ICU入室後約2時間で覚醒した。不全対麻痺、Th9レベル以下の知覚鈍麻を認めたが、吸引後脳脊髄圧は13mmHgであり、吸引後、SEPに異常を認めなかったため、ドレナージカテーテルを抜去した。周術期に測定したCSF内S100蛋白濃度は18.6ng/mlと異常高値を認めた。脊髄損傷の程度はFrankel分類Bであり、ソロメドロール500mg静注およびナロキソンの持続静注療法(1μg/kg/hr)を開始し、ナロキソン投与開始後2時間頃より下肢運動は改善傾向となり、投与会誌からナロキソン投与7時間後に知覚鈍麻は消失し、下腿の運動も可能となりFrankel分類Dまで改善した。脳脊髄MRI上L1レベルで脊髄前角細胞に虚血性変化を認めた。術後2日目にICU退室し、その後も神経学的合併症を生じる事なく経過した。考察:ナロキソンは一般的に麻薬拮抗薬として用いられるが、脊髄の血流改善効果があるとされ、胸部大動脈瘤術後の脊髄損傷に対する予防的投与の有用性が報告されている。今回、演者は術後に不全麻痺を生じた症例に対して、、ナロキソンを投与したところ症状の改善をみた。この症状改善に対してナロキソンがどの程度関与したかについての証明は難しいが、臨床経過からみて有効であったと推測している。


 

D-27 急速に進行する肺出血と急性腎不全で来院したANCA関連血管炎症候群2例の治療経験

 

1和歌山県立医科大学 救急集中治療部

庄野 剛史1、那須 英紀1、篠崎 真紀1、松山 健次1、乾 晃造1、中 敏夫1、川崎 貞男1、篠崎 正博1

 

急性に発症したびまん性肺胞出血による急性呼吸不全と急性腎不全をきたしたANCA関連血管炎の2例を同時期に診療する機会を得たので報告する。(症例1)51歳女性、特記すべき既往症なし。感冒症状と大量喀血,血尿にて当院を紹介受診,両側びまん性肺胞出血による呼吸不全と急性腎不全所見から血管炎症候群と診断し、MPLパルス療法を開始した。しかしびまん性肺胞出血による呼吸不全の進行を制御できず,3日後に血漿交換を開始し,呼吸不全に対してECLA補助下に呼吸管理を継続したが呼吸状態の改善が得られず第22病日永眠された。(症例2)66歳女性。全身倦怠感、受診前日から血痰と血尿を主訴に当院紹介受診,血管炎症候群を疑い,当院受診24時間内にMPL+血漿交換を開始したところ肺出血症状は消退し,全身状態は改善した。(考察)両例ともにP-ANCAが高値であり、血管炎症候群によるびまん性肺胞出血症候群と診断した2例であり、開胸肺生検にても血管炎の存在を確認した。進行性のび漫性肺胞出血においては血管炎の存在を念頭におき,速やかに血漿交換を中心とした免疫抑制治療と急性期呼吸管理の集学的治療を考慮することが示唆された。

 


 

D-28胸痛と呼吸困難で発症した特発性食道破裂の1例

 

1河内総合病院 循環器科、2河内総合病院 心臓血管外科、3河内総合病院 消化器科、4河内総合病院 外科

山口 仁史1、林 英宰1、吉田 貞夫1、入野 宏明1、岩田 昭夫1、中川 隆文1、三嶋 正芳1、安田 治正2、古谷 保博2、阪越 信雄2、有吉 隆久3、今西 清3、阪上 雅規4、岸本 慎一4、大岩 寛治4、乾 大資4、原 孝彦4

 

症例は68歳女性。既往歴、高血圧、高コレステロール血症、クモ膜下出血(平成8年)、脳梗塞(平成9年)。平成13年3月7日午後2時頃、食後に気分不良が出現し、嘔吐。その直後より、激しい左前胸部痛が出現した。数分後に呼吸困難感出現し、次第に増悪したため、同日午後3時00分頃、当科救急外来を受診した。意識は正常であったが、強度の呼吸困難のため会話は不可能であった。呼吸困難が強度であったこと、身体所見で全身のチアノーゼが認められたこと、動脈血ガス検査で酸素飽和度が低値(SaO2 = 88%)であったこと、から気管内挿管による人工呼吸管理を開始した。心電図は左軸偏位があったが、左室肥大や心筋虚血所見はなかった。仰臥位の胸部レントゲン上、左肺に軽度の気胸、軽度の縦隔気腫を認めたが原因はよく分からなかった。そこで、胸部大動脈瘤、気胸などを鑑別診断するため胸部CT検査を施行した。大動脈の拡大はなかったが、左胸腔内に多量の胸水貯留を認めた。胸腔内出血が疑われたため、胸腔内に吸引チューブを挿入。胸腔内から排液された赤褐色半透明液体の性状と穿刺液内アミラーゼ( 32010 IU / L )高値から、胸腔内貯留液の主体は消化液(たとえば唾液)と考えられた。(1)過食後の嘔吐を契機とした胸痛出現、(2)胸部CT検査での縦隔気腫を認めたこと、(3)心筋梗塞や大動脈解離が否定された、ことから上部消化管破裂が疑われた。当院消化器科にて緊急内視鏡検査の結果、食道下部(横隔膜直上、左側に径 2cm)に裂孔を認めた。周囲組織に特別の異常所見がなかったことから特発性食道破裂と診断しえた(発症後、約5時間)。嘔吐時に比較的脆弱な下部食道壁が破裂したものと考えられた。当院外科にて緊急手術を行い、無事救命され、経過良好であった。同年4月20日、軽快退院となった。突然発症の胸痛と著しい呼吸困難で発症し、急速に呼吸状態が悪化して来院したが、早期の診断と治療により救命でき、独歩で元気に退院することができた。臨床症状が重症であったことから診断に困難があったが、発症早期の診断と適切な治療により良好に経過した特発性食道破裂の症例を報告する。

 


 

D-29甲状腺機能低下症との鑑別が困難であった急性副腎不全の一例

 

1東大阪市立総合病院 麻酔科・集中治療部

谷本 敬1、佐野 秀1、梅垣 修1、宮脇 有紀1、重松 文子1、古泉 真理1

 

症例66歳、女性。

既往歴15年前、橋本病に対し甲状腺亜全摘手術を施行された後、乾燥甲状腺薬を内服していた。服薬のコンプライアンスは不良であった。

現病歴:感冒症状、全身倦怠、食思不振、嘔気を主訴として来院した。血圧は132/81mmHg、心拍数56/分で、血液検査にて低ナトリウム血症(111mEq/l)ならびにCPKの高値(751U/l)を認めた。既往並びに現症より甲状腺機能低下症と診断され入院となった。甲状腺機能低下症に特有の心嚢液の貯留、浮腫等の症状は認めなかった。入院後、生理食塩水の補液、甲状腺ホルモンの投与を開始したが、治療に反応せず、第3病日には、血圧の低下、心室性不整脈の出現、代謝性アシドーシスの進行、意識障害、酸素化能の低下等の症状を呈してきたため、気管内挿管後ICUに入室した。ICU入室時の意識レベルはJCS20点、ドパミン10μg/kg/min投与下で血圧は67/43mmHg、心拍数106/分であった。ドパミンに加えドブタミンの投与ならびに輸液負荷を行うが、反応は乏しかった。カテコラミン投与に抵抗性の低血圧に加え、低ナトリウム血症および尿中ナトリウム排泄の増加を示す鉱質コルチコイド欠乏症状から急性副腎不全を疑い、ヒドロコルチゾン200mgを静注した後8時間毎に100mgの投与を開始した。以後血中ナトリウム濃度は上昇に転じ、循環動態は安定し、代謝性アシドーシスも改善されてきた。第4病日からはカテコラミンの減量がなされ、第6病日に抜管し呼吸循環動態共に安定しているためICUを退室した。以後、乾燥甲状腺薬、ヒドロコルチゾンの内服を行い第45病日に独歩退院となった。

考察:今回のICU入室時のエピソードは、感冒等のストレス、甲状腺ホルモンの投与等が誘因になり急性副腎不全を起こしたものと考えられた。副腎機能低下症の原因は、ICU入室前の検体で、FT3、FT4は正常範囲内でTSHが低値であること、ステロイド投与直前のACTH、コルチゾールが低下していることより、視床下部-下垂体系の障害が疑われた。本症例は当初、甲状腺機能低下症と診断されたため、ステロイドの投与が遅れて重篤化した。内分泌疾患は診断に時間を要するため、カテコラミン投与に抵抗性の循環不全を示す症例では、常に副腎不全を考慮するべきである。


 

D-30妊娠時に発症した高脂血症合併急性膵炎の1治験例

 

1兵庫医科大学病院 集中治療部

有村 佳修1、奥谷 龍1、植木 隆介1、太城 力良1

 

はじめに:周産期に合併する急性膵炎は本邦で約80例が報告されているが、母子ともに重篤な経過を示す場合が多く、妊娠時の急性腹症の1つとして注意すべき疾患である。今回、演者らは妊娠時に発症した高脂血症を合併した急性膵炎の1例を経験したので報告する。症例呈示症例:35歳、女性 身長160 kg、体重67kg。主訴:心窩部痛、背部痛既往歴:第二児出産時高脂血症現病歴:今回は3回目の妊娠であり、順調に経過していた。妊娠38周5日より、上腹部痛及び背部痛が出現し、血中アミラーゼ値1129 IU、総コレステロール値1520 mg / dl、トリグリセリド13010 mg / dlを示し、急性膵炎と診断された。胎児仮死状態に陥ったため緊急帝王切開術が施行されたが、すでに胎児は死亡していた。母体後腹膜には多量の血腫(乳糜様、無臭・粘調)を認め、腹腔ドレナージを施行後閉腹した。手術終了後、全身状態不良のため当院ICUに緊急搬送となった。ICU経過:重症膵炎およびDICの治療として、蛋白合成酵素阻害剤と低分子ヘパリンを投与するとともに、血漿交換療法(PE)さらにCHDFも施行した。以後、血液浄化療法を継続することで、入室3日目に循環・呼吸状態が改善したため気管内チューブを抜管した。血清総コレステロールおよびトリグリセリドの値は下降し、第6病日には一般病棟に転棟できた。考察:高度な高脂血症および急性膵炎に対し脂質に代表される高分子量物質を除去するためにPEおよび CHDFを施行することで、血清中脂質は改善でき、救命できた。


 

D-31 重症急性膵炎により誘発されたと考えられる血球貪食症候群の一例

 

1神戸市立中央市民病院 救急部、2神戸市立中央市民病院 麻酔科

大塚 祐史1、内藤 嘉之2、木口 貴夫2

 

重症急性膵炎の経過中、ウイルス感染症その他既知の誘発因子を伴わずに血球貪食症候群を合併し、ステロイド投与が治療に有効であった一例を経験した。(症例)75歳男性、胃癌、食道癌、肺癌術後。重傷急性膵炎によるショックの診断で入院となり、持続血液透析、人工呼吸管理、腹膜潅流を行った。経過中明らかな感染兆候を伴わないにもかかわらず汎血球減少症が進行したため骨髄穿刺を施行したところ、血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome, HPS)との診断に至った。直ちにステロイドパルス療法を行ったところ血球数は速やかに回復し、全身状態も改善した。(考察)HPSは汎血球減少、肝障害、DIC等を来たし、時に重篤な転帰をとる症候群である。現在まで悪性腫瘍、膠原病、感染症などに合併する例が多数報告されており、最近では全身性炎症反応症候群(SIRS)等の高サイトカイン血症をその本態とする病態との関連が指摘されている。一方重症急性膵炎においては、高サイトカイン血症がその病態において重要な役割を果たしており、過剰産生されたサイトカインバランスによってはHPSを合併する可能性は十分に考えられる。HPSの治療は、原疾患に対する治療のみならずステロイド投与などの免疫抑制療法が必要であることから、本症例の様に明らかな感染兆候を伴わずに、原因不明の汎血球減少が重症SIRSの病態に合併した場合には、早期に骨髄穿刺を行って診断を確定し、HPSに対する治療の適否を検討する必要があると考えられる。

 


 

D-32 血漿交換療法が著効した血球貪食症候群の1症例

 

1滋賀医科大学 医学部附属病院 集中治療部、2滋賀医科大学 医学部 第一外科

萬代 良一1、松浪 薫1、江口 豊1、佐井 義和1、近藤 浩之2、谷 徹2、野坂 修一1

 

今回我々は、人工肛門閉鎖術後に遷延する発熱、血小板減少症を呈し、骨髄生検像より血球貪食症候群(HPS)と診断した症例に対し、血漿交換(PE)療法が著効したので報告する。【症例】76歳、男性。2000年2月に回腸、S状結腸内ヘルニアによる絞扼性イレウスに対し、S状結腸切除+人工肛門造設術を施行した。同年10月に人工肛門閉鎖術を行ったが、術後2日目より40℃を超える発熱とともに血小板減少をきたした。敗血症に伴う播種性血管内凝固症候群(DIC)の診断にて、感染巣検索のために胸腹部CT、各種培養を行ったが経過中明らかなfocusはなく、抗生剤投与、DIC治療を行うも発熱、血小板減少は続いた。連日の発熱はsulpyrine投与にても解熱しないためmethylprednisolone(MPS)投与を余儀なくされ、また血小板も連日の血小板輸血を必要とした。術後9日目に行った骨髄生検像はhypocellularであり、一部にmacrophageによる血小板貪食像が見られたが炎症性の変化と判断した。術後14日目の骨髄生検像では貪食像が増加しており、LDH(262 IU/dl)、フェリチン(512 mg/l)は異常高値ではないものの、感染巣がなく、DICマーカーの変動も血小板の減少とつりあわないため、HPSと診断した。MPS長期使用による副作用(創傷治癒遷延、2次感染)を懸念し、術後16、17日目にPEを行い、術後19日目よりMPS投与を漸減した。その結果、血小板は増加、解熱傾向となり、全身状態は改善した。図に経過を示す。【考察】本症例は典型例ではないものの、高熱、血球減少、骨髄像および臨床経過よりHPSと診断した。HPSの原因として考えられるlymphoma、自己免疫疾患、およびEB virus、細菌、真菌感染は除外したが、他のvirus感染については不明である。本症例は何らかのvirus感染に手術侵襲が加わった結果、cytokine networkの乱れが生じ、HPSを発症したと考えられる。cytokine除去目的にて行ったPEが著効したことは、このことの間接証明と考える。


 

D-33 肺血栓塞栓症による心肺停止後3時間の蘇生により回復した一例

 

1住友病院 麻酔科、2住友病院 心臓血管外科

野村 哲也1、西良 雅夫1、中筋 加恵1、澤井 克彦1、吉川 範子1、立川 茂樹1、安宅 啓二2

 

いわゆるエコノミー症候群による急性肺血栓塞栓症を来し心肺停止となったが、3時間に及ぶ心臓マッサージの後に突然自己心拍が再開し、ほとんど神経学的欠損なしに回復した1例を経験したので報告する。

患者は57歳女性。身長149cm、体重50kg。 46歳時に左股関節全置換術を受けており今回左股関節再置換術が予定された。術前のADL、呼吸機能等に異常無かった。深夜の遠距離バスを利用して自宅のある愛媛県から来阪した。翌朝大阪駅からタクシーに乗り継ぎ当院救急外来到着時、胸部不快感を訴えていた。血圧は保たれていたが頻呼吸、頻脈であり心電図上第3誘導で陰性T波があった。ルームエアーでの血液ガス所見はpH7.056、PaCO233.5、PaO240.5、BE-21.4と低酸素血症と著明な代謝性アシドーシスを認めた。呼吸困難が非常に強く会話がほとんど成立しなかった。意識レベルが低下し心肺停止状態となったため蘇生を開始し、心臓マッサージをしながら集中治療室に入室した。心エコー上はっきりとした所見は不明であったが臨床経過から肺塞栓を疑った。PCPSを考慮するが徐脈、瞳孔散大となってきたため積極的な治療を断念し在阪の近親者の到着を待つため心臓マッサージを続けていたところ、約3時間後に突然自己心拍が再開した。

やがて呼名に対し反応し、離握手可能となったので直ちに血管造影を施行し、肺塞栓症の確定診断を得た。主に左肺底動脈に血流の途絶が確認され、ワイヤーを挿入して血栓を破砕吸引すると共に血栓溶解療法を開始した。血液検査ではAST841、ALT350、LDH1777と上昇を認めた。当日夕には血液ガスデータは著明に改善したが胸部X線では両肺野びまん性の肺水腫像を呈した。輸血、カテコラミン等により循環動態は安定していたが、入室2日目より上室性頻拍を生じ治療に難渋した。抗不整脈薬の投与、カルジオバージョンを必要とした。鎮静からの覚醒は良好で一時期気管切開を置いたが間もなく呼吸器から離脱できた。長時間による蘇生を行ったにもかかわらず肋骨骨折や肝損傷などは生じなかった。下肢静脈造影では深部静脈の閉塞像は認めなかった。上肢にわずかな振戦があり、頭部MRIにて淡蒼球などに心肺停止時の還流不足によると思われる虚血性変化を認めたものの幸い日常生活には問題となる程ではなかった。その他の神経学的欠損を認めず入院67日目独歩退院できた。


 

D-34右腎腫瘍による肺塞栓症の1例

 

1京都府立医科大学 集中治療部

坂野 英俊1、井上 静香1、木村 彰夫1、松田 知之1、橋本 悟1、田中 義文1

 

患者は64歳女性。H13年2月、右腎腫瘍および下大静脈腫瘍塞栓と診断されたため、3月下旬にバイオポンプ使用下での右腎摘出術及び腫瘍塞栓摘除術を予定されていた。3/15自宅で倒れたため救急搬送され、CT施行したところ右肺静脈本幹に腫瘍塞栓が認められた。酸素・カテコラミン投与されてもSpO2・血圧の維持が困難であったため、手術目的に当院ICUに緊急入室した。入室時、意識レベルは清明であったが、12 L 100 %マスクでPaO2124 mmHg、PaCO2 24 mmHg、塩酸ドパミン15 μg/kg/min投与で血圧60/35 mmHgであった。エピネフリン持続投与を開始したが血圧は上がらなかった。また緊急検査にてFDP 828 μg/ml、D-dimer 134 μg/ml、フィブリノゲン101 mg/dl、INR 2.03と著明なDICであった。手術室で気管内挿管し、人工心肺使用下に腫瘍塞栓を除去した。術中、肺出血が出現したため、PCPS使用下に人工心肺を離脱し、その90分後PCPSを離脱した。術中出血量は約3500 mlであり、右腎摘出術は行わないほうが良いと判断した。ICU帰室時、FIO2 1.0にてPaO2 105 mmHg、PaCO2 41 mmHg、エピネフリン0.2 μg/kg/min、塩酸ドパミン12 μg/kg/min、塩酸ドブタミン9 μg/kg/minにて血圧120/60脈拍110であった。尿量少なく利尿剤にも反応しないため、持続的血液透析を開始した。気管支ファイバー上、明らかな出血源は認めなかったが、出血傾向は著明であった。その後バイタルは安定し、PaO2改善、カテコラミンも減量することができ、3/20には尿量も増え持続的血液透析から離脱することができた。3/21 CT施行、右肺動脈下葉支内に塞栓は残存していたが、右腎腫瘍の頭側への進展の程度に著変は認めなかった。3/22 腫瘍塞栓再発防止のため下大静脈に一時的フィルターを留置した。3/23 気管内チューブを抜去した。3/28 右腎腫瘍摘出術施行。術中、大きな問題はなかった。4/10 肺血流シンチ施行。PA本幹は描出され、肺野は左右同時に描出していたが、量的には左の方が低下していた。右肺は上葉、中葉の一部、下葉S6やS10で楔状欠損がみられ、左肺もS6、舌区が欠損に近く、S3や下葉で血流低下を認めた。現在では、腫瘍塞栓によると思われる脳梗塞を認めるが、歩行ができるまで回復された。本例では、比較的早期に腫瘍塞栓摘除術を行うことで、一命を取り留めることができた。また、二期的に手術を行い、一時的フィルターを留置したことでより安全に治療することができた、と考えられる。

 


 

D-35重症急性肺塞栓症後の集中治療3例

 

1大阪府立病院 麻酔科、2大阪府立母子センター

長谷井 真理1、谷上 博信1、井上 潤一2、春名 純一2、三好 恵理子1、稲森 紀子1、人見 一彰1、平田 隆彦1、森 隆比古1

 

重症急性肺塞栓症後の集中治療3例 大阪府立病院麻酔科長谷井 真理、 谷上 博信、 井上 潤一、 春名 純一、 三好 恵理子、 稲森 紀子、 人見 一彰、平田 隆彦、 森 隆比古心肺停止や重篤な呼吸不全を呈した急性肺塞栓症3例を経験し、それぞれの病態に応じた集中治療管理を行ったので報告する。【症例】(症例1) 59歳女性、身長158cm、体重68kg。胆石症で開腹胆摘術を施行。手術翌日離床後に、心肺停止状態を発見されPCPSを装着。胸部CTにて両側肺動脈起始部に塞栓を認めたため、開胸血栓除去術を施行した。血栓除去後も中心静脈圧は17~20mmHg、肺動脈圧27~30mmHgと高値で、血液ガス所見も不良であった。呼吸管理は1回換気量を10ml/kgで開始したが、気道内圧が上昇したため6~7ml/kgに下げざるを得なかった。下大静脈フィルターを留置し、発症後10日で抜管することができた。また、極力カテコラミンの投与をさけ、肺高血圧に対してはPGE1を投与した。(症例2) 17歳男性、身長175cm、体重72kg。外傷にて、縦隔血腫、左頚動脈仮性動脈瘤を認めた。受傷8日目に一旦抜管したが、すぐに呼吸状態悪化し、再度人工呼吸管理となった。血管造影で右肺動脈塞栓を認め、人工心肺下に血栓を除去した。血栓除去後、中心静脈圧は25mmHg→9~12mmHgと低下し、血液ガス所見も良好で、人工呼吸の離脱は良好であり、術翌日抜管した。術後は一回換気量10 ml/kgにて行い、気道内圧の上昇等はみられなかった。(症例3) 68歳男性、身長156cm、体重59kg。既往歴として、35年前より精神分裂病の内服治療中で、10年前に心筋梗塞発症し、以後抗凝固薬も内服していた。今回、前交通動脈瘤を指摘され、左大腿動脈より血管造影施行したが、止血不良で二日間安静を要した。安静解除当日、離床後心肺停止状態で発見され、PCPSを装着。血管造影で血栓は右肺動脈に確認されたのみであったため、血栓除去は行わず、下大静脈フィルターを留置してPCPSを離脱した。人工呼吸管理は一回換気量10 ml/kgにて行い、気道内圧の上昇等はみられなかった。【考察】急性肺動脈血栓塞栓症の治療法として、血栓溶解療法や血栓除去術が行われるが、重症例では、血栓除去後も、重篤な右心不全やreperfusion pulmonary edemaが危惧される。治療法として、カテコラミンは心拍出量・肺血流量を増加させ、肺水腫を増悪させるため、投与を最小限にとどめることが推奨されている。また1回換気量10ml/kg程度の通常の人工呼吸管理は、残存した正常な換気領域に対し相対的に大きなボリュームが入り、肺損傷が危惧されるため、重症例では、低1回換気量による人工呼吸が望ましいとされている。今回我々は、右心不全、肺水腫が強く危惧された症例1で、上記のような管理を行った。【結語】重症急性肺塞栓症3例に対し病態に応じ異なった管理を行い、救命し得た。

 


 

D-36低リン血症によると思われる意識レベルおよび筋力低下から呼吸不全をきたした慢性透析患者の一例

1神戸市立西市民病院 外科、2神戸市立中央市民病院 麻酔科、3神戸市立西市民病院 腎臓内科、4神戸市立中央市民病院 外科

野々村 智子1、内藤 嘉之2、松島 弘幸3、宮脇 郁子2、岡田 憲幸4

 

低リン血症は、輸液や消化管手術による吸収障害などしばしば医原性にみとめられ重症化すると筋力低下、呼吸不全、うっ血性心不全、さらに意識障害をきたす。我々は、慢性透析下の長期高カロリー輸液と腸液の漏出に起因すると思われる低リン血症により、意識レベル低下、筋力低下、呼吸不全をきたした症例を経験した。(症例)63才、女性。糸球体腎炎による慢性腎不全のため、平成7年より腹膜透析を受けていた。平成12年8月近医にて膵胆管の拡張を指摘され、精査目的で当院へ入院となった。十二指腸乳頭部腫瘍と診断され、同年10月2日幽門部温存膵頭十二指腸切除術が施行された。術後第1日より週3回の血液透析へ移行した。術後第11日に胆管空腸吻合部にリークが見られ、術後第15日に再開腹ドレナージ術が施行された。ドレナージより1日200~300mlの排液が77日に渡って持続した。術後第120日、意識レベル低下(JCS300)、四肢脱力および呼吸不全をきたした。血液ガス分析でPaCO2110mmHgと高値であったため眠剤によるCO2 ナルコ-シスを疑い、気管内挿管のうえ人工呼吸管理を行った。それに伴い急速に意識レベルの改善が認められたので、人工呼吸開始後3時間にて抜管した。抜管後透析を行ったが、再び意識レベルの低下、頻呼吸(35~40回/分)を認め、再挿管となった。巣症状がなく、頭部CT検査および脳波検査上明らかな異常が見られないため、代謝性意識障害が疑われた。血液検査ではBUN 、NH3、Naは正常、K3.3mEq/l、P 0.1mEq/l、Mg1.7mg/dlと低値であった。低リン血症による意識レベル低下および筋力低下、呼吸不全を疑い、リン酸二カリウムを7日内で計180mEq経静脈的に投与した。投与開始後3日にて意識レベルの改善が認められ、6日後には筋力が回復した。7日後には抜管可能となり、翌日ICU退室となった。抜管当日の血清リン値は1.4mEq/lであった。(考察)本症例で見られた意識レベルおよび筋力低下と呼吸不全は1)血清リン値が極めて低値であったこと、2)リン酸二カリウム投与による血清リン値の上昇とともに症状が著明に改善した事などから、低リン血症によって引き起こされたと考えられる。また低リン血症を来した原因として1)腎不全患者用高カロリー輸液剤の長期投与によるリン摂取の途絶2)腸液ドレナージによる体内リンの喪失などが考えられた。

 


 

N-1 ICU入室前訪問案内用紙の見直し~スタッフからのアンケートをもとに検討して~

 

1近畿大学医学部付属病院 集中治療部

能城 久美子1、仲森 さおり1、筬島 美紀1、浦井 美香1

 

ICUでは,手術の前日もしくは2日前に入室予定者である患者とその家族を対象にICU案内用紙(以下パンフレットとする)とICU内の写真を用いて入室前オリエンテーションと情報収集を行っている.このパンフレットは平成9年度に作成されたものであるが問題点が多く,患者とその家族に十分な説明ができないとする意見が多かった.そこで今回我々は看護スタッフを対象にパンフレットに関するアンケート調査を行い,問題点を見直しするとともにパンフレットを新しく改訂したので報告する.【方法および結果】第1段階としてICU看護スタッフ28名を対象としたアンケート調査を行った.調査項目はパンフレットの内容で不要な点,不足している点,ICU周囲の見取り図の必要性,説明時の患者および家族の反応とした.結果として約6~8割のスタッフがパンフレットに問題を認めており,アンケート内容を検討したところ以下の問題点が明らかになった.1.気管内チューブについて:気管内挿管に関する過剰な説明は患者の不安を増強させる可能性が強いため,パンフレットからその記載を省き,挿管のまま入室してくる可能性の高い患者にのみ図を交えて説明するよう改善した.2.持参物品について:従来は歯ブラシ,ティッシュペーパー,スプーン,吸い飲みと限局した記載がされていたが,患者によっては不必要なものも多く,また記載内容以外の物品に関する質問も多かった.そのため今回は空欄とし個々の患者に応じた物品を記載できるよう改訂した.3.入室前の準備について:患者への術前練習として臥位での深呼吸,咳嗽,排便練習を挙げていたが各病棟で既にオリエンテーションが行われており,重複するため省略した.4.家族への面会時の説明について:ガウンテクニックについては初回面会時に必ずスタッフが説明しているため,今回は細かい説明文は省いた.5.ICU周囲の見取り図について:今回のアンケート結果では約半数のスタッフが見取り図の必要性を認めており,ICU内,ICU付近,トイレ配置図を取り入れた.次に第2段階として,以上の結果より作成した改訂後のパンフレットに関するアンケート調査を第1段階と同様の内容で行ったところ,多くのスタッフが改善をみとめ,新パンフレットに沿ったオリエンテーションが実施できていることが分かった.【結語】新パンフレットを作成したことで個別性にあった必要な情報を患者,家族に提供することができるようになり,不安の軽減につながったと思われる.

 


 

N-2 情報開示に向けた看護記録への取り組み―方法の整備とその後の意識調査―

 

1明石市立市民病院 ICU

生頼 順子1、三浦 容子1

 

【はじめに】診療情報の開示は、社会的ニーズと共に各々の医療機関で検討がすすめられている。当院ICUでは「ICU RECORD」と称す記録用紙を用いている。限られたスペースに多くの情報を記入できるが、一方で略語や記号が多く使用され、第三者には理解しにくいものであった。そこで、誰もが理解できる「ICU RECORD」の記録を目標に、記録状況の調査と検討を行った。また、略語や記号の整備や標準化の後、情報開示に対するスタッフの意識を併せて調査した。【方法】(1)「ICU RECORD」の不適切な略語・記号についての検討 (2)「ICU RECORD」の記録の標準化 (3)開示に関するスタッフへの意識調査【結果】(1) アルファベットの頭文字を用いた略語「G」(ガーゼ)「R」(呼吸)「M」(胃)が多く使われていた。調査した「ICU RECORD」のサンプル112枚中重複するものを1枚と数え、62枚にいずれかの略語が使用されていた。検討後はサンプル51枚中4枚になり「G」のみ使用されていた。また「↑・↓」「+・-」の記号はサンプル112枚中48枚に使用されていた。検討後は51枚中2枚に使用された。 (2)「ICU RECORD」の具体的な記述モデルを作成し、いつでも参考に出来るようになった。『看護記録の開示に関するガイドライン』などから抜粋した留意点をポスターで掲示することで相互啓発につながった。 (3)取り組み前は開示を意識しているとするものは、全くなかった。しかし取り組み後の調査では意識しているとするものが多くあり、意識していないとするものはなくなった。【考察】看護記録の課題のひとつとして、規定外の略語や、わかりにくい表現が慣習的に使用されていることがある。今回の検討の中で具体的にどのようなものが、どれくらい使われているか知ることが出来た。取り組み後の意識調査では、開示に取り組む意識の変化がみられ、情報開示に対応する第一歩が踏み出せた。【おわりに】開示を前提とした看護記録への取り組みを行ない「標準化された記録をする」という意識付けが出来た。今後も刻々と変化する急性期の看護を必要とするICUにおいて、開示に向けての記録の質の向上に取り組んでいきたい。

 


 

N-3 非侵襲的陽圧換気呼吸(バイパップマスク使用)施行時の注意点の検討-誤嚥を起こした症例を通して-

 

1京都大学医学部附属病院 救急部・集中治療部

誉田 あかね1、落合 真理子1、佐藤 幸子1

 

【はじめに】LRLT術後は上腹部の手術の為どうしても横隔膜の動きが悪くなる症例が多く、また胸・腹水が貯留しやすい。その為抜管後はCO2が貯留する患者が多く同時にPO2の上がらない患者もいる。そこで最近は CO2貯留に対し(PCO2 40以上で適応)挿管をせず、バイパップマスク(以下BM)による非侵襲的陽圧換気呼吸が積極的に行われている。今回、二次的合併症を防ぐためのBM使用時の注意点について再検討したので報告する。【患者紹介】 61才 女性H12.12.15 LRLT(夫 ドナー 右葉グラフト 適合)H12.12.20 ICU退室H13.1.1. 肺炎悪化、肺うっ血出現H13.1.2. CHDF、呼吸管理目的でICU入室H13.1.9. 呼吸状態改善し退室H13.2.26 努力様呼吸出現X-P・CT上 右下肺炎像、肺うっ血増強、全体に肺水腫にてICU入室入室時上記に加え、腹水による呼吸苦、頻呼吸ありまたアシドーシス状態にてBM下で管理となる。BM下にて、呼吸苦軽減しABGも良好となる。しかし、マスクを外すと容易にSpO280台まで低下みられていた。自己喀痰排出は可能であり、意志疎通可能であったが失見当や落ち着きのない動きも見られ、ライントラブルがあったため、両上肢は抑制していた。入室時より嘔気・嘔吐ありMS挿入されていたが、2/27深夜帯、嘔吐と共にMS抜けてしまいそのまま様子観察していた。嘔吐は少しずつ続いていたため、腸瘻より薬のみ注入中であった。GEを1日2回施行していたが反応は無かった。2/28朝、CX-P上右肺炎増強、誤嚥性肺炎が疑われABG保てず、夕方挿管、人工呼吸管理となる。【考察】この症例は、腸動が確認出来ず、腸瘻よりの経管栄養、連日浣腸を施行し、腸動を待っていたがなかなか好転ぜす。BMは患者の意志とは関係なく陽圧換気する為、どうしても胃に空気が入りやすい。腸浮腫、腹水貯留で胃が圧迫されていた。以上より嘔吐しやすい状態であった。さらに嘔吐した場合に陽圧換気下であった為、口内にある吐物を押し込んでしまう状況であったことが誤嚥の一因であった事は否定出来ない。【まとめ】 本来、BMは意識レベルの良い患者が在宅で使用する事がほとんどであった。しかし年々呼吸管理の手段の一つとして位置付けられて多用され、ICUでは必ずしも意識レベルのよい患者に使うとは限らない。そこで今回の症例から検討したBM施行時の誤嚥予防に対する新たな注意点は以下の通りである。・ギャッジアップ45゜以上・嘔気を訴えたりMSの排液の多い場合はDrにすぐ連絡し、可能であれば一時的に酸 素マスクとする。・嘔吐した時にはすぐにBMを外す・装着前に患者に外し方を説明しておく。(ICU内で使用する患者に関しては意識レベ ル不良であることも多いが、可能であれば)・腹部状態の確認・自己喀痰の確認

 


 

N-4 連続カフ圧測定によるカフ圧調整のタイミングの検討

 

1滋賀医科大学付属病院 救急部・集中治療部

辻井 靖子1、丸山 雅恵1、市岡 周子1

 

【はじめに】集中治療領域では呼吸管理が不可欠であるが、最近それに伴い呼吸器関連肺炎(VAP)が問題となっている。VAPの予防対策のひとつが、カフ圧管理であるがカフ圧の経時的変化は明確でない。カフ圧を連続してモニターすることで,時間の経過や看護ケアとカフ圧低下との関連性を明確にし,適切なカフ圧調整の時期を知ることができないかと考えた。その結果,カフ圧調整のタイミングの興味あるデータが得られた。【研究方法】圧トランスデューサーに連結した耐圧チューブをパイロットバルーンの自由端に接続し、連続的にカフ圧を測定した。カフ圧の初期圧を20mmHgに設定し、15mmHgを下回った時点でカフ圧を再調整することにした。初期圧設定から再調節までの時間を計測し、それを1データとした。統計には、スペアマン相関係数,Hテスト、NSKを用いた。また,測定中明らかにカフ圧が低下したと思われる要因について記録し、カテゴリー分けした。【結果】症例数6例,全データ数271,対象の挿管日数は,1~29日,平均9日であった。調整時間は平均178.4±SD153.9分,中央値は130分であった。圧差と調整時間,挿管日数と調整時間との間には,相関関係はみられなかった。しかし,症例毎の調整時間において有意差がみられた。また明らかにカフ圧が低下したと思われる要因については,体位変換が最も多く次いで気管内吸引,咳嗽であった。【考察】カフ圧は時間の経過とともに低下したが,調整時間はノンパラメトリックで,症例毎に有意な差を認める結果となった。これはカフ圧の低下が常に一定時間で起こるのではなく,患者個々の要因に影響を受けることを意味すると考えられる。 研究中に記録されている看護行為のなかで,カフ圧が低下する要因として体位変換が最も多かった。頸部の屈曲後にカフ圧の上昇を,伸展後に低下を認めると言われている。体位変換時には頸部の屈曲や伸展がおこりやすい。特に意識が清明でない患者の場合,頭部は体幹のねじれよりも遅れ伸展位になるため低下しやすいと思われる。次いで気管内吸引,咳嗽があげられる。吸引に随伴する咳嗽反射が影響すると考える。咳嗽時は胸腔内圧の上昇により一時的にカフ圧より高い気道内圧が生じる。急激に上昇した気道内圧が,カフ圧に影響したと推察する。 また一般に,酸素・二酸化炭素・窒素のカフ内外への出入りは,動脈血酸素分圧の変動により,変化を来たすと言われている。吸入酸素濃度や患者個人の酸素化能も他の要因と考えられる。<まとめ>カフ圧は,初圧を19~21mmHg調整時圧を12~15mmHgと設定した場合,約130分で再調整を必要とするとわかった。しかし,カフ圧の低下は必ずしも一定ではなく,体位変換や咳嗽によって影響を受けやすく,この際にも再調整する必要があると言える。また,それ以外にカフ圧を低下させる患者個々の要因が考えられ,今後それら要因の検索研究の必要がある。

 


 

N-5 イラストで学ぶICU機器講義スライドの作製

 

1西神戸医療センター 麻酔科

堀川 由夫1、田中 修1、伊地智 和子1、飯島 克博1、河上 寿和子1、田中 寧1

 

「始めに」

ICUでは様々なモニターや人工呼吸器などの多様な機器が用いられる。患者ケアの上でこれら機器類の原理や構造を理解することは必須であるが、ICUで勤務する看護婦や研修医は日々の業務に追われ、機器の理解を学習することまで手が及ばないのが実情である。そこで、ICUの看護婦や研修医を対象に、モニターや医療機器の構造や原理をイラストにより独習できるスライドを作製した。

「スライド内容の工夫」

・初級者になじめるように説明は短くイラストの多い内容とした。

・機器の構造や原理を医学的知識ではなく、日常の経験を例に示して理解できるように工夫した。

・病院や各自のパソコンでソフトの追加なく閲覧できるようにHTMLファイル化した。

・各内容をフロッピーディスクに収めて自由にコピーや携帯できるようにファイル容量を工夫した。

「内容紹介」

{人工呼吸器編}肺疾患の呼吸努力はストローでお茶を飲む場合とシェークを飲む場合の苦労の違いで説明し、酸素供給方式のデマンド吸気とフローバイは注文寿司とくるくる寿司のイラストを例に説明した。

{血液ろ過編}CHFとCHDFをそれぞれ洗濯機の脱水すすぎと注水すすぎを例に説明し、各モードをイラストで理解できるようにした。

PCPS編}遠心ポンプを脱水機で水をはじき飛ばすことで理解できるように工夫し、遠心ポンプの構造や人工肺についてもイラストで理解できるようにした。

{ベンチュリマスク編}ベンチュリマスクで酸素と空気を混合して任意の濃度を得る原理をイラストなどで説明し、実際の構造を実写画像を使って説明した。

「まとめ」

これらの内容は当院麻酔科HPのhttp://www.ne.jp/asahi/nishi-kobe/masui/でも公開し、誰でも閲覧できるようにするとともに、フロッピーディスク版もホームページ上で入手できるようにした。これらを具体的な例も示しながら紹介する。

 

 


 

N-6 開胸手術後における夜間遅発性低酸素血症の検討と周術期看護の見直し

 

1関西医科大学付属病院 4S病棟

林 清美1

 

1.はじめに最近の研究で術後2~4日目の夜間に、遅発性低酸素血症が起こる症例の存在が報告されている。当病棟では呼吸器、循環器の外科病棟でありながら、その存在の浸透性は低い。特に呼吸器外科術後では、通常患者のバイタルサインや血液ガス分析に問題がなければ、術後1~2日目よりモニタリングや酸素投与が中止される。今回呼吸器疾患患者の開胸手術症例を対象に、夜間、動脈血酸素飽和度(以下SpO2 ) のモニタリングを実施した。これより術後遅発性低酸素血症の存在を確認し、今後の周術期看護の見直しをおこなった。2.対象1999.9月~12月開胸手術を行った呼吸器疾患患者10症例3.方法術前日と、術当日~術後5日目までの夜間のSpO2 測定をした 。 測定にはマリンクロット社製NPB290とOxisensorIIを使用し、データの解析にはNelcorScoreT Mを使用した。4.結果 SpO2の測定結果を術前日値と比較した。酸素飽和度の平均値は、術前日96%で、術当日は+0.8%上昇した。術後2日目までは-0.4%と殆ど有意差はなく、3日目以降-0.9~-2.1%と減少していた。1症例においては、 特にSpO2 が術後3日目以降顕著に下降した例であった。喫煙暦はなく、肺機能は正常範囲内、BMIによる肥満指数正常であった。しかし術前よりガス分析値がルームエアー下で、Pa O2 :71.3mmHg、SpO 2:92%と低値であった。5.考察今回特に術後呼吸障害が起こりやすいと懸念される呼吸器疾患患者を対象に、夜間の術後遅発性低酸素血症の存在を確認した。しかも、状態の安定したと思われる術後3日目以降の夜間に低酸素血症が発生する傾向がみられた。術後遅発性低酸素血症の原因については、手術侵襲において、睡眠パターンの変調によるレム睡眠のリバウンドが主因と考えられている。それに加えて創痛による呼吸抑制や、術式による肺容量の減少などの関連も示唆される。しかし、ほとんどの症例において、術後2日目には酸素投与、SpO2の連続測定を中止していた。術後夜間の遅発性低酸素血症は重篤な合併症との関連も示唆されている。今回重篤な合併症などは認めなかったものの、遅発性低酸素血症についてのリスクファクターは明確になっていない。それだけに今回の研究を通じて、周術期における夜間睡眠中の患者の看護、特に観察面での見直しが必要であると考えた。

 


 

N-7食道癌術後に反回神経麻痺を起こした患者への援助

 

1和歌山県立医科大学附属病院 救命救急センター ICU

熊代 真理1、志田 光恵1、村松 由美子1

 

1、 はじめに 食道癌術後に反回神経麻痺を起こした患者に対し、術後早期より呼吸理学療法を行った。同時に生理的ニードへの援助を積極的に行い、その結果、呼吸器合併症を起こさずICUを退室することができた。この事例について検討したので報告する。2、 患者紹介 M氏 63歳 男性 術前癌の告知を受ける。配偶者とは2年前に死別する。 病名・術式:食道癌・右開胸開腹食道亜全摘、頚部胃管吻合 入院期間・ICU入室期間:2000年4月29日~10月10日・6月15日~27日3、 看護の実際 M氏は術前より理学療法士(以下PTと略す)の呼吸訓練を受けており、術後の呼吸理学療法計画はPTとともに作成した。術後理学療法を始めるにあたって、挿管されていたM氏とは筆談でコミュニケーションをとり、その説明をし、同意を得た。理学療法をすすめる中で、夜間も呼気介助を行うことはM氏の睡眠を妨げることになると考えられた。そのため、昼夜でその方法を変え、日中の覚醒と夜間の遮光・防音に注意し、時計・ラジオを活用して時間を意識できる環境を整えた結果、M氏の睡眠が確立されていった。またM氏とは筆談でのコミュニケーションが早期より確立できていたため、環境を整える際M氏の希望に添うように行うことができ、他の援助の際にもM氏の希望に添った方法で行うことができた。また話す機会が多くなることで、不安や希望を話してくれる関係が築け、M氏の精神状態への援助も行うことができた。理学療法を実施する中でM氏からも呼気介助を求める反応が得られていた。しかし2度抜管を試みるが咳嗽が出来ず、語嚥するため気管切開術が施行された。その期間中M氏は一時的に落胆の表情を見せてもすぐに思い直し、積極的に参加し続けていた。4、 考察 今回のケースにおいて患者が意欲的に理学療法に取り組むことができたのは、看護者との信頼関係が確立されていたことと、環境を整えることで患者の自助能力を最大限に引き出すことができたためだと考える。

 


 

N-8 食道癌患者における術後不穏の改善の試み~看護視点から見た鎮痛・鎮静剤の使用方法の見直し~

 

1神戸市立中央市民病院 集中治療部

雪田 智子1、延堂 麻紀1、奥吉 昌子1、曽谷 咲恵1、林 敏美1、井出 絹代1

 

【はじめに】食道癌術後患者の不穏の発生が年々低下していることに注目し、平成11年と平成12年の2年間の食道癌術後患者51名の経過を調査した結果、鎮痛・鎮静剤の使用方法が影響を及ぼしていることが分かったので報告する。なお不穏の強さはSedation-Agitation Scaleで判定し、5以上を不穏とした。【結果と考察】不穏の発生について分析した結果、年齢・性別・病名告知の有無・挿管期間にはあまり関係はなかった。不穏に陥った患者は不眠であることが多く、適切に鎮静剤を使用し不眠が解消されることで不穏は消失した。したがって、夜間の睡眠が得られることは不穏を予防し、消失させる上で重要であることが分かった。当院の鎮静は、プロポフォールを使うことが多く、24時間持続投与と夜間のみの投与が行われている。24時間持続投与の場合、メリハリのない覚醒-睡眠リズムのため生体リズムを乱してしまい、不穏を引き起こす要因となる可能性があった。反対に夜間のみの投与の場合は、昼間に日常生活リズムに近づくことができ夜間の睡眠は得られた。このため、24時間持続投与の場合も、生活リズムを乱さないように日中と夜間との投与量を増減させる必要がある。また患者の循環動態や精神状態により、24時間持続投与にするか夜間のみの投与にするかを見極めなければならない。そしてプロポフォール非投与の不穏発生が少ないという結果からみて、プロポフォールの使用にこだわらず、生体リズムを考慮した鎮静剤の使用方法と看護によって睡眠が得られるようにしなければならない。鎮痛については、肺理学療法や清拭などの処置の前に積極的に行うことで、日中の活動レベルを高めることができ、メリハリのある生活が行えた。今回の結果では、不穏は術後2病日までに発生しており、術後早期の鎮痛は睡眠への援助につながることも分かった。今後は生体リズムを乱さないような鎮痛・鎮静と看護ケアで、不穏を予防することが目標である。

 


 

C-1 急性期における腸管機能維持の重要性を考える-長期挿管患者に経腸管栄養を開始した例を通して-

 

1京都府立医科大学附属病院 こどもICU

藤田 一美1、脇 恭子1

 

ICU入室患者の多くは、治療上絶食を余儀なくされるが多い。しかし、絶食期間が長期間に及ぶと、腸管の廃用性萎縮が惹起されるため、できるだけ早期に経腸管栄養(=enteral nutrition,以下ENとする)の開始が望ましいとされる。今回、心不全から抜管困難となり長期間絶食となっていたが、ENの開始により合併症の改善を認め抜管可能となった一例を振り返り、ENの効果について考える。【事例紹介】3ヶ月 女児 両大血管右室起始症 肺動脈狭窄 右B-Tシャント術後【看護介入】 左B-Tシャント術後にこどもICUに入室。肺体血流比不均衡から心不全に陥り、抜管困難となった。強制利尿に伴う電解質異常(Na170)・腎機能の低下、電解質異常に伴う神経症状などの合併症が顕在化してきたため、電解質バランスと栄養状態の是正を目的にENが開始されることとなった。16podより経十二指腸的に、LactobacillusとL-glutamineを投与し整腸を行った。翌日より経管栄養剤を開始、消化器症状なく順調に濃度・量とも増量することができた。ENの投与カロリーが安定した30podにTPNから離脱。また、高Na血症は EN開始により速やかに正常化した。EN開始から情緒的にも安定し、呼吸トレーニングも順調に進み、EN開始10日目に抜管に至った。【考察】重症心不全患者は、負荷に対する予備力が少ない上、心・腎機能の低下から体液均衡が容易に破綻する危険性を孕んでいる。そのため、急性期にはカロリーを維持するだけのENは危険と考える。しかし低心拍出による腸管虚血から腸粘膜は脆弱化する上に、絶食は腸粘膜の廃用性萎縮を招く。この状態では消化吸収障害を生じるなど、後の栄養摂取に問題が生じる恐れがある。それらを踏まえ、急性期から回復期を見通しての腸管の機能維持を考えることは重要な看護の視点であると考える。今回の症例では、消化器に合併症を来たすことなくENが確立することができた。この要因として、筋弛緩薬の使用期間が短かったこと、整腸剤投与から段階的にENに移行したことなどが考えられる。これらにより、腸管機能が生理的に維持できたことが、ENの確立から電解質異常などの合併症の改善へとつながったと考える。しかし、一方で無計画なENの開始はイレウスなどの合併症を引き起こす恐れもある。また、この症例の場合にも絶食期間は16日に及んでおり、もっと早期にENを開始し得た可能性もあった。今後は、腸管の機能維持を早期から考え、水分出納や心機能などをアセスメントした上で、EN開始の適切な時期を考えていきたい。

 


C-2 意識障害のある患者への味覚刺激の効果

 

1大阪市立大学 医学部 附属病院 ICU

水谷 美保1、島本 千秋1、米田 眞智子1

 

【はじめに】「意識障害患者に嚥下自立に向けて急性期から援助することは、脳血管障害からの意識の回復に影響する」といわれている。今回頭部外傷患者に、早期から取り入れた味覚刺激が、意識レベルの向上につながったと思われる症例を経験したので報告する。【患者紹介】患者はS氏65歳の女性である。自転車で帰宅途中、乗用車にはねられ受傷し、救命目的で搬送された。検査の結果、左側頭骨・頭蓋底骨折、外傷性クモ膜下出血、右尺骨近位端剥離骨折、骨盤骨折、左大腿骨頚部骨折と診断された。【入院後経過】来院時の意識レベルはJCS20であったが、翌日意識レベルの低下があり、脳圧センサーを挿入し抗脳浮腫療法を行った。入室5日目頃から意識レベルは改善し、11日目に気管切開・左大腿骨の観血的整復術後、21日目に一般病棟へ転棟となった。【看護の方法と結果】私達はS氏に対し、日常生活を通しての刺激を受けられ、意識レベルが改善するという目標をたて、援助の1つに口腔内への刺激を計画した。入室7日目から、1日3回口腔内のアイスマッサージと頸部の拘縮予防の運動を行った。気管切開後には、氷片の摂取を試みた際転がしながら食べていた。嚥下機能は維持できていると判断し、12日目に味覚刺激を取り入れることにした。この際、患者が甘党であるという情報からハチミツを用いることにした。ハチミツを舌にのせるとそれをなめ、もう少しいりますかの問いに開口して待っていた。この援助を継続したところ、以前は看護婦の問いかけに反応のよい時に「はい」と答えるくらいであったが、16日目頃からチョコレートとハチミツのどちらがいいか問うと、「チョコレートがいい」と答えるようになった。また、あいさつをしたり笑ったりするようにもなった。【考察】「意識障害がある患者への、急性期の嚥下障害に対するアプローチの基本は、発症から1か月の間に一刻も早く経口摂取ができるよう嚥下機能を促進することである」といわれている。この間の援助は口腔ケアと間接嚥下訓練である。私達は入室7日目から、口腔内のアイスマッサージを行っていた。氷片を摂取したときに転がしながら食べていたことから、経口挿管中から口腔内への刺激を行ったことで、咀嚼・嚥下機能の廃用性機能障害の予防はできたと考える。経口摂取に関しては、当ICUでは経管栄養が主であり、またS氏の場合呼吸器の離脱がすすまず開始できなかった。経口摂取が意識の向上に与える影響は、咀嚼や味覚、食塊の嚥下などにより脳を絶えず刺激していることによる。そこで味覚刺激をとりいれたところ、JCSでは2桁で大きな変化はなかったが自己の欲求を満たそうとする反応が得られた。頭部外傷後の意識レベルの向上には個人差があり、今回の援助だけで評価をすることは難しい。しかし、経口摂取が開始できない患者に味覚刺激を取り入れることは、患者の新たな反応を引き出すための援助になり得ると考える。


 

C-3 気管切開を行った胸部大動脈瘤切迫破裂患者の食に対する援助 ~経口摂取で活気を引き出せた症例の振り返り

 

1六甲アイランド病院

糸井 三代子1、田中 まゆみ1、安岡 都起子1、加門 茂美1、山田 鈴子1

 

I. はじめに気管切開を行った高齢の胸部大動脈瘤切迫破裂患者に対し、経口摂取を開始し危険動作の減少及びADLの拡大を得ることができた為その看護について振り返る。II. 看護の実際本症例は、咳嗽反射による動脈瘤破裂の危険性があり、気管切開後も誤嚥を認めたため経口摂取を制限されていた。患者は、次第に体動が激しくなり、顔を左右に振ったり、看護婦に噛み付いたりするような動作が見られ始めた。このような危険動作の原因として、食に対する欲求不満が考えられたため、患者の欲求を満たす治療看護方針を検討し、発声訓練・咽頭マッサージと共に経口摂取訓練を再開した。これにより、経口摂取時の誤嚥を防ぐことができ、患者からは満足を表す言葉が聞かれ、生活リズムにも安定が得られ、少しずつADLが拡大した。III. 考察本症例では動脈瘤の破裂を恐れるばかり、積極的な経口摂取を勧められず患者の欲求を抑制していた。口渇を癒すケアだけでは満足が得られず、患者のストレスをさらに強くする結果となり、危険動作や生活リズムの乱れに繋がったと考えられた。 患者にとっては食べることが生きる意欲となり、患者の食に対する基本的欲求を満たすことに重点をおいた看護方針をとったことが、危険動作の消失と生活リズムの変化につながったと考える。IV. おわりに今回、生命の危険性を伴う経口摂取を実施したが、患者の食という基本的欲求を充足させたことが、闘病意欲を取り戻す要素となった。患者の欲求をどこまで優先させるか、また、どのような看護方針を選択するかを見極めることが看護婦の重要な役割であると再認識させられた。


 

C-4 病状への不安が強く,食欲低下が見られる患者の回復意欲につながる食事援助の検討

 

1大阪府立病院 ICUCCU

木谷 美保1

 

術後患者は身体的苦痛や病状への不安などから,食欲低下をきたしている場合が多い.このような患者に対し,食事援助の方法を工夫することで「食べれる」という自信につながり,そのことによって回復意欲が向上するのではないかと考えた.今回私達は,再手術後で身体的な回復を十分に感じられず,病状への不安が非常に強いため,食欲低下が見られ経口摂取が進まない事例を経験した.この事例を振り返り,ICUにおける回復意欲につながる食事への援助について検討した.症例は,解離性大動脈瘤術後,感染性左頚動脈仮性動脈瘤の52歳男性,E氏である.キーパーソンは妻であり,ICU入室期間は平成12年6月12日~7月31日である.入室期間を第一期,ICU入室から感染グラフト摘出術まで,第二期,感染グラフト摘出術から経腸栄養開始まで,第三期,経腸栄養開始から呼吸器による間歇的呼吸訓練を経て一般病棟へ転床となるまでとした.看護の実際は,第二期と第三期について述べる.第二期では『倦怠感及び病状への不安に伴う食欲低下に関連した栄養状態の変調』を看護診断に挙げ,看護目標を身体的苦痛及び不安が軽減し,食欲が増進するとした. 術後,食事摂取に対する意欲は見られていたが,発熱をきっかけに,「食事いらん,食べたくない」,「身体全体がだるい」「しんどくてたまらん」などの言動がきかれた.そこで,病院食が進まなかったE氏に対して,妻に持ってきてもらった補食の摂取を促した.さらに,解熱時に食事を勧めたり,散歩に出かけるなど気分転換を図ることで補食を口にする頻度は増えた.第三期では『病状への不安の持続に伴う回復意欲の低下』を看護診断に挙げ,看護目標を病状の回復が実感でき回復意欲が高まるとした.経腸栄養開始後,中枢ルートが抜去となり,食事摂取に前向きな言動が聞かれた.しかし,呼吸訓練中,人工呼吸器が装着されていないことへの不安が回復意欲の妨げになっていた.そこで,食べれるという自信が不安の軽減につながり,回復意欲が向上すると考え,食欲が増進するように妻の面会時間を食事時間に合わせてもらったり,本人の食べたい時間に合わせて配膳し,日常生活に近づけられるような配慮をした. 本事例の振り返りよりICUにおける回復意欲につながる食事援助について検討した結果,1)食欲低下をきたしている患者には,家族の協力のもと嗜好に合わせた補食の摂取を促すことが有効であった.2)食事摂取の際,患者の状態に合わせた配膳や,日常生活における食事様式に近い環境を整えることが食欲増進につながった.3)ルート抜去,呼吸器からの離脱など,患者が病状の回復を実感することが回復意欲を高め,食欲増進につながった.


 

C-5 四肢麻痺・気管切開患者の経口摂取の援助から得たこと

 

1兵庫医科大学病院 集中治療部

赤田 慎太郎1、樋川 洋一1、奥村 みき1、峯瀬 美千代1

 

ICUに入室する患者の多くは、気管内挿管中で意識レベルが低下した状態にあり、経口摂取に移行するまでのプロセスは容易でない。経口摂取のできない患者の栄養補給としては、経腸栄養や高カロリー輸液などの手段があるが、人は口から食べる事がもっとも生理的であり、食の欲求が満たされる。ICUにおいても可能な限り経口摂取に向けて援助することにより、患者の食の欲求を満たし、精神的な安定や闘病意欲を高めることができると考えた。 今回、四肢麻痺で“食”への欲求が強かったにもかかわらず、挿管による呼吸管理が必要となった患者の経口摂取の援助を通して、ICUにおける「食」の欲求について考察を行った。その結果、(1)経口摂取の援助は、患者の安全(誤嚥の予防)確保が重要である。(2)食べることが、唯一の楽しみであった患者に食の欲求をふまえた援助は効果的である。(3)ICUにおける食事においても「よろこび・安心・人々との繋がり」を提供できるように援助を行う。上記の結果を得たのでここに報告する。


 

C-6 嚥下障害のある患者の食への援助

 

1大阪市立大学医学部附属病院 冠疾患集中治療部

清水 真由美1、錦 綾子1、大河内 香1

 

1.はじめに "食べる行為は生きる意欲につながる"といわれる。脳幹部梗塞をおこした患者が、意識レベルの回復に伴い食へのニードが明確になり、嚥下練習をすることで更に反応が改善した。そこでこの症例の食のニードが嚥下練習に与えた影響について考察したので報告する。 2.事例紹介 患者はY氏、65歳、男性。狭心症のため再度CABG術施行。術後心臓カテーテルにて脳幹部(橋・延髄)梗塞発症。意識レベルの低下、呼吸停止、四肢麻痺が出現した為、気管切開が行われた。その後、自発呼吸も弱いが出現し始め、口唇で徐々に訴えを表現するようになる。キーパーソンは長女、次女で毎日面会がある。3.看護の実際と結果 Y氏は、口唇、舌の動きの改善がみられ、脳梗塞後64日目に本人の希望もあり氷を摂取し始めた。嗜好のコーヒーで氷を作成したものを与えると、笑顔が見られた。ゼリー類の嚥下もできていたため、家族にペースト食の作成を依頼すると、色々工夫して持参されたが、味や固さの加減で誤嚥してしまうこともあった。更に定期の食事(ペースト食)を開始していたが、それ以外にも家人が持参した食事を休みなく摂取する為、疲労が増大し誤嚥性肺炎を起こしてしまった。しかし、家人の持参される食事は患者の嗜好を考慮したものであり、練習中患者は嬉しそうであった。また口から食べたいというニードが日中の座位時間の延長(車椅子への移乗を含む)、四肢筋力の回復、呼吸機能の改善につながり、プラス面へ働いた。4.考察 食とは、マスローの欲求の階層関係で、基本的ニードのひとつであるとされており、石川は「食べる行為は単に栄養を補給するだけでなく、生きる意欲につながる」と述べている。Y氏の場合も嚥下練習を始めてから、様々な回復がみられた。結果的には誤嚥性肺炎に陥ったが、原因として嚥下運動練習が不充分であったことと、介助者側の先走りが大きかったと思われる。食べさせたいという家族の気持ちを尊重しながら、あせらず専門的に嚥下リハビリを行えば、より良い結果をもたらしたのではないか。今回の症例で、通常CCUは食への援助よりもまず救命が優先される場であるが、Y氏に対し長期間にわたり食について関わったことは、Y氏のQOL向上にとって有効であったのではないかと考える。