理学療法士・作業療法士よりみなさまへ

集中治療室におけるリハビリテーテーションとは?

皆さんは「集中治療室でリハビリテーションなんてできるの?」と思われるかもしれません。皆さんの集中治療室のイメージは、「意識を失った重症患者さんに対して、人工呼吸器や心電図、血圧計など専門的な医療機器を装着して、絶対安静で、多くの点滴につながれて、高度な専門治療が行われている」、そんなイメージではないでしょうか?確かに、集中治療とは、患者さんの急変に対して、全身状態を安定化させるための専門的な診療を提供するものですが、「早期回復に向けての支援」も極めて重要な集中治療の役割です。私たち理学療法士(physical therapist:PT)・作業療法士(occupational therapist:OT)は、集中治療を受けられている重症な患者さんに対して、呼吸などのさまざまな臓器の機能を助けること、また、早く活動性を高めることができることなどを目的として、集中治療室でリハビリテーションを行っています。

全身状態が完全に安定した後にリハビリを始めるよりも、全身状態の安定の兆しに併せてリハビリテーションを始めることで、身体の機能を維持することができます。退院後に、長期に及ぶ辛いリハビリテーション人生を送るよりも、専門家の指導の下、集中治療室の専門医療チームと、少しずつリハビリテーションを始めることで、早い時期に身の回りのことが自分でできるようになり、結果的に早く退院できて、社会復帰も早くなります。

集中治療室における 患者さん・ご家族のご理解とご協力

集中治療室でのリハビリテーションの成功には、患者さん、そしてご家族の理解と協力が不可欠です。最近では、日本でも集中治療室でのリハビリテーションが定着して、多くの集中治療室でリハビリテーションが行われるようになりました。ですので、万が一、自分が集中治療室に入るようなことがあった場合、「リハビリしましょう」といわれても驚かないでください。むしろ、「リハビリができるぐらい状態に安定の兆しがあるんだ」と思っていただくといいと思います。

適切なリハビリテーションを早期から行うことで、手足の筋力が維持できます。また、起き上がる、座る、立つ、歩くといった日常生活機能が維持できます。定時に起きて、適宜に運動を行うことで、混乱(せん妄)を予防できます。仰向けでいるよりも起きていることで、肺炎を予防することもできます。様々なリハビリテーションがありますが、中心となるのは「早期離床」です。早期離床は、一定の基準に基づいて、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、臨床工学技士などが協力しながら、頭をあげ、体を起こし、ベッドに腰掛け、立ち上がり、歩くことを段階的に行います。

集中治療室におけるリハビリテーションガイドライン

日本集中治療医学会では、集中治療室でのリハビリテーションの標準化を目指して、ガイドライン「集中治療における早期リハビリテーション ~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~」(日集中医誌 2017;24:255-303)を作成しました。日本集中治療医学会では、今後も、集中治療医学および関連領域の進歩をはかることとあわせて、集中治療室でのリハビリテーションが日本のどこにいても公平に受けられるように、そして、集中治療を受ける患者さんやご家族が身体的、心理的、社会的、職業的回復についての不安を取り除けるように、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、臨床工学技士などの教育と連携に努め、集中治療領域におけるリハビリの発展を支援していきます。

日本集中治療医学会は、集中治療を必要とする重症な皆さまにむけて、集中治療の段階からの適切なリハビリテーションの発展と標準化を目指しています。ご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 
2020年5月
日本集中治療医学会
理事 高橋哲也