ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

-296-WS2-1 Post-Intensive Care Syndrome高知大学医学部 麻酔科学・集中治療医学講座山下 幸一近年、高齢化と集中治療の適応拡大により集中治療室で治療を受ける患者数は激増し、加えて治療技術の発展がともなって入室期間も長期化する傾向がある。しかも、集中治療を受けた患者はその後長期の通院や入退院を繰り返す可能性が高く医療費の高騰にもつながっており集中治療後の医療環境を整えることは急務と考えられる。このように重症疾患の治療後に発症した長期にわたる身体的、精神的、認知的障害やその家族の精神的障害はPost-Intensive Care Syndrome(PICS)と呼ばれ近年注目されている。PICSは、2010年にthe Society of Critical Care Medicineで開催された集中治療後の治療や長期の患者ケアに関わる関係諸団体(31団体)が集まり開催された会議(a stakeholders` conference)で提唱された概念である(Needham DM et al. Crit Care Med 2012;40: 502-509)。これまで集中治療は臓器別の病態にのみ注目し、機能的な障害には注目してこなかった歴史がある。このような背景をもとに、この会議では1)集中治療後の患者と家族の長期予後を理解すること、2)協力する関係諸団体と共通の理解をもつこと、3)患者と家族に対する治療戦略と財源を理解すること、4)関係諸団体による長期予後の改善法を模索することを開催目的として掲げている。そして、PICSの原因・危険因子・自然経過が検討され、患者側(PICS)では、呼吸器合併症(肺容量の減少)、集中治療後筋力低下(critical illness polyneuromyopathy; CIPM)、身体的機能障害(ADL)、精神障害(抑うつ、PTSD)、認知障害などが生じ、家族側(PICS-F)では、精神障害(抑うつ、PTSD、不安、悔やみ)などが生ずることが明らかにされた。また、PICSを治療・予防する手段としてリハビリテーションの効果が期待された。しかし、これまでPICSに対して有効性を示した論文は少なく、最近のSystematic ReviewでもリハビリテーションのPICSに対する効果は未確定と結論づけられている(Mehlhorn Jet al. Crit Care Med 2014; 42: 1263-1271)。しかも、現在は保険点数(財源)の関係でリハビリテーションを長期わたり受けらることは不可能であり今後の課題と考えられている。一方、PICS の実態が疫学や評価方法が不十分なため研究成果との格差が大きいことも問題とされている。PICSは、患者本人だけでなく家族や社会に対しても大きな影響を及ぼすため、今後集中治療医等の専門医、家庭医、在宅ケアに関わる諸団体が協力しPICS の実態を解明していく必要があると考えられる。本ワークショップでは、最近の文献をもとにPICS を概説することを目的とする。ワークショップ 2 2月12日(金) 15:40~17:40 第6会場Post-Intensive Care SyndromeWS2-2 長期アウトカム評価におけるエビデンス構築の困難さ北摂総合病院 呼吸器内科福家 良太 近年の医療の進歩に伴うICU患者の生存率の向上に伴い,ICU退室後,さらには退院後の運動機能,認知機能,精神の障害といった後遺症を有する患者が増加している。これらの患者は長期的な死亡あるいはQOLの低下として認知されるようになり無視できない状況となっている。そこでPICS(Post-Intensive Care Syndrome)という疾患概念が提唱され,既に米国集中治療医学会においては2 回のコンセンサス会議が行われている。 このPICSへの適切な予防介入を行う以上は,PICSのリスク因子,診断をまず知る必要があり,その上で有効な介入の模索が検討される。現在,本邦では世界に先駆けてPICSを盛り込んだ日本版重症敗血症診療ガイドライン2016を作成中であるが,明確な推奨を出すにはエビデンスが脆弱であるという問題がある。確かにPICSに関する報告は多く,多岐にわたるが,そのほとんどは観察研究であり,種々の交絡因子の排除が困難であるがためにRCT(無作為化比較試験)と結果に乖離が生じうる。近年,Propensity Score Matching解析により観察研究の質を高める手法もとられているが,それでもRCT との結果の乖離が生じることは集中治療領域において報告されているため,解釈に注意を要する。複数のRCTで機能予後が評価されているのはリハビリテーションと鎮痛鎮静の領域のみであり,その他の領域のRCT によるエビデンスはあくまでも二次解析に留まり,検出力や長期followに伴う多数のサンプル脱落が問題となる。過去の観察研究結果やエキスパートオピニオンから「おそらくは好ましいものであろう」と考えられている介入がRCT で評価するとむしろ悪化させてしまうケースもあり,我々医療従事者の根底にあるバイアスをもとにした質の低い研究デザインによるエビデンスへの警鐘と考えられる一傍証であろう。しかし,一方でRCTを行うこと自体困難を極めることも現実である。PICSの評価となれば年単位での長期followが必要となり,さらには対象集団の入院時のみならず疾患罹患前の状態のADL,QOLの把握も必要となる。 また,PICS は必ずしも治癒しうる疾患ではないことは多くの医療従事者が現場で痛感することである。特に高齢患者においては不可逆な機能低下を生じることも多く,ADL,QOL の低下は必至となり,自宅退院が困難となる。このため,PICS の議論においては,同時にEnd-of-Lifeを併せて考慮する必要があり,より評価を難しくさせている。 今後,PICSに関連した研究はさらに多く報告されることが予想されるが,同時にPICSはその特性ゆえに,その国の医療背景や社会・経済,さらには文化・宗教に至るまでさまざまな影響を免れない。このため,PICSの周知のみならず,本邦独自の研究が必要であり,さらには限られた医療財政の中での行政とも連携した取り組みが必要となる。今後のPICSの研究をどのように行っていくべきか,積極的な議論がなされていくことを切望する。