ブックタイトル第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

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第43回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集

-221-SY4-3 せん妄対策としての医原性リスク低減:~ICU患者生活のパラダイムシフトとPatient centered care~学校法人鉄蕉館 亀田医療大学 成人看護学古賀 雄二Reducing iatrogenic risks(医原性リスク低減)。これはABCDE バンドル(2010 年)のメインメッセージである。ICU 患者の医原性リスク予防策を組み合わせ患者の悪化を防ぐという概念は、PADガイドライン(2013年)にも反映され、事後対応から予防へと、PAD管理概念に変化を促した。つまり、医原性リスクの予防・低減がPAD・J-PADガイドラインの中心概念である。PAD ガイドラインは患者管理法の具体として、Light Sedation(LS)管理を推奨した。LSは全身状態を見極めたうえで鎮静深度を「隙あらば浅く」管理することであり、Preemptive Analgesia やAnalgesia First Sedation による積極的な鎮痛管理および早期離床も同時に推奨されている。LS により患者が覚醒し始めたことで、ICUは治療優先の場から患者生活(ICU patient dailyliving)の場へとパラダイムシフトを遂げた。患者は現状認知が促され、痛みの管理や騒音、あふれる光への環境調整の重要性が増し、覚醒後の睡眠管理のあり方や鎮静・覚醒度に合わせた離床方法の検討も進んでいる。こうした変化に伴い、休息と活動のあり方も進化する必要があるが、そこには患者中心(Patient centered)というPADガイドラインのもう一つの中心概念を加えることで、様々なケアの可能性が生じる。例えば、患者中心の休息として、睡眠周期の経年変化や高度侵襲下の睡眠パターンの変化を考慮した患者ごとの昼と夜の定義を見直す必要があると考える。患者の休息欲求に伴う午睡(nap)と表現しうる睡眠を尊重した休息が良眠(good sleep)をもたらすと考える。また、活動とは離床を含めたあらゆるADL関連動作であると考えるが、nap や活動意欲を考慮した活動タイミングと活動内容・強度・間隔を24時間の枠組みで調整することが、患者中心の活動と休息のバランス調整であると考える。つまり、早期離床に限らないICUリハビリテーションの枠組みを議論すべきであり、リハビリ職と看護師が互いの専門性の軸足を保ちつつも協力し合うケアのあり方(Trans-ProfessionalWorking)を議論していく必要がある。米国クリティカルケア看護協会のせん妄予防戦略である“Give PEACE(Physiologic, Environmental, ADLs/Sleep,Communication, Education / Evaluation)a Chance” もまた、コミュニケーションの重要性を示している。患者中心の医療、看護、リハビリ、睡眠、生活、ADL 再構築など、Patient centered careの概念で患者理解を試みること、患者の自律性を支えることが重要である。そして、すべての職種が、自己申告の可否に関わらず様々な状態の患者とコミュニケーションをとるための共通言語として、PAD の枠組みと具体的評価法は存在する。患者とコミュニケーションをとらないこと、患者のPain を軽視すること、患者のあらゆるニード充足の自律性を阻害すること、医療者のバイアスに気づかないことが、最も厄介な医原性リスクであると考える。SY4-4 ICU獲得性筋力低下1)長崎大学大学院 内部障害リハビリテーション学、2)長崎大学病院 リハビリテーション部、3)長崎大学病院 集中治療部神津 玲1,2)、森本 陽介2)、花田 匡利2)、及川 真人1,2)、俵 祐一2)、矢野 雄大2)、名倉 弘樹2)、松本 周平3)、東島 潮3)、関野 元裕3) ICU 獲得性筋力低下(intensive care unit-acquired weakness, ICUAW)とは,ICU で管理された重症患者に急性に生じる全身的な筋力低下であり,その基礎疾患以外に原因を特定できないものであると定義される。発症率は予想以上に高く,重症患者の50-100%に発症したとする報告もあり,重症患者の救命率向上に伴ってICUにおける一般的な合併症と認識する必要がある。その特徴は対称性かつ弛緩性のびまん性筋力低下であり,障害は呼吸筋にも及び,重症例では四肢麻痺をきたす。リスク因子として敗血症,異化亢進,多臓器不全,全身性炎症疾患,高血糖,不動などが指摘されているが,同じく不動に起因する廃用症候群とは明らかに異なる病態である。ICUAW の合併は,人工呼吸器からの離脱遅延,死亡率の増加,長期間にわたる身体機能障害や健康関連生活の質の低下など,患者にとって重要な短期および長期予後に深刻な悪影響を及ぼすことが知られている。特に高齢者,呼吸あるいは循環不全の合併,長期人工呼吸管理,血糖管理不良例ではICUAWの回復不良群であり,遷延例では回復に数か月さらには数年を要する場合もある。 早期離床と運動を阻害する因子は患者因子,環境因子,医療スタッフ因子に大別できるが,ICUAWは患者因子のひとつであると同時に,早期離床と運動「そのもの」が予防および治療介入の手段でもあるという特性がある。したがって,ICUAW の存在を常に意識して,いかに予防するかということが重要な課題であり,ハイリスク症例の予測と早期選別に基づき,過鎮静を避けるともにリスク因子の除去にも務める全身管理が必要不可欠となる。 ICUAWの病態は未解明な部分も多く,治療法も確立されていないが,現在,臨床現場ではその予防を期待してリスク因子の「不動」を軽減するための早期離床と運動介入,さらには骨格筋への機械的刺激(電気あるいは伸張刺激)などの手段が適用されている。しかし,ICUAWをどの程度まで予防および改善し得たのか,長期機能予後がどのくらい改善したのか,現時点でその有効性は限定的であり,明らかになっていない。このような現状を踏まえ,本シンポジウムでは早期離床と運動を阻害する因子としてのICUAWといかに向き合うか,先行研究に自験例を加えて考察し,提言をさせていただく予定である。